井の中の蛙、インドへ

インドで学んだことを書いていきます。よろしくお願いします!

日印租税条約の各種PEに迫る

[前置き]

 最近のコロナの動向です。世界の感染者数は782万人、死者は43.2万人。インドの累計感染者数は34.3万人、死者は9900人。日本では累計感染者数17587人、死者927人です。

 インドでは、5月以降急増しており、ロックダウンを早く解除しすぎたという批判が見られますが、経済状況を踏まえると苦肉の策として受け入れるしかないと考えられます。今後は各企業が如何にリスクをヘッジしつつ業務を遂行していくかという勝負となるでしょう。

 最近のニュースとしてはアメリカで盛り上がっている黒人への人種差別反対のデモ活動でしょう。524日に、ミネソタGeorge Floyde氏という黒人が白人警察官に取り押さえられている間に死亡したという事件がありました。これを受けてアメリカ全土で人種差別反対のデモが勃発したのです。#BlackLivesMatterというワードが3週間以上、連日ニュース等で見られました。現在も世界各地でデモの動きが見られます。

 僕個人的には、人種差別のある社会というのは能力主義が十分に浸透していない環境で生じるものだろうと感じます。個人的にアメリカンフットボールをよく見るのですが、ここでは、完全なる能力主義が取られています。資本主義がスポーツ界に浸透して、各チームにとって勝利こそが最重要課題となったために白人至上主義が撤廃されていき、身体能力やチームに貢献する能力で選手を選抜する方向に動いたのです。今では大学アメフト、プロリーグ共に黒人の方が多くプレーしています。ビジネスの世界も、同様で、他者との競争を考えた時に、人種に関わらず結果を出す人が採用されるというのは至極真っ当な結論でしょう。いちばんの問題は、このような評価が適用されない場面での人種差別です。警察による逮捕、投獄、医療、単純労働者の就職・労働などです。今回のGeorge Floyde 氏の事件は、氏が偽造通貨を使用して商品を購入したとして逮捕された時に起きたものでした。これらの場面での差別をなくすためには政治家や一定の発言力を持った人が動かないとどうしようもないと思われます。このような悲しい事件が起きないように政治、メディア、社会活動かなど、多くの人が団結して社会を変えていく必要があるでしょう。

 実際、アメフトのプロリーグであるnfl(National Football League)も公式声明を発表して、人種差別の撤廃の必要性を宣言しました。他の多くのプロチームやカレッジのチーム、NCAA、選手など、多くの関係者が声明を発表しました。多くの人が沈黙は悪というコメントを添えていたのが印象的でした。

 最近のニュースとして世間を賑わしていたものとして、Jio Platforms の株式約22%(約15000億円相当)がフェイスブック(9.99%取得)及び複数のアメリカ系ののPEファンドとアラブ首長国連邦の政府系ファンドに売られるということがありました。Jio Platforms 社は、2019年にインドの財閥の一つであるReliance Industries Limited (RIL)からデジタルビジネスを切り離して設立されたRILグループ最大の子会社です。Jio Platform 社の20205月時点での企業価値72000億円相当以上と見積もられています(ウィキペディア)。Jio Platforms社の完全子会社にはJio社があります。Jio社は38750万人の利用者を擁するインド最大の携帯電話会社で、世界では3番目に大きいものです(ウィキペディア参照)。フェイスブックの眼目はずばり、インドの携帯電話利用者のデータの取得といって間違いないでしょう。あらゆるデータの価値が高まりを見せる社会で、インドの潜在的保有する資産価値は現在十分に金銭的価値に置き換えられているとは考えられません。今後さらなる市場の拡大と企業価値の向上を見越しての決断でしょう。フェイスブック以外の巨大ファンドがこのインドのデジタルビジネス会社の株に数千億円相当を注ぎ込んだのは、マネーゲームとみられます。インド携帯電話市場への投資がいかに魅力的な投資先かを示しているといって問題ないでしょう。インドの携帯電話市場及びそれに関連するオンラインサービス市場は将来想像を絶する市場を形成していることでしょう。大変楽しみです。

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Mukesh Dhirubhai Ambani(63)はリライアンスグループのトップであり、総資産は20206月時点で約6兆円相当とみられています。現在アジアで最も裕福な人と言われています。同時期の孫正義さんは24千億円相当とのことです(*0)。

 

 

 

さて、今回は日印租税条約とPE(恒久的施設)について自分の勉強も兼ねて書いてみます。

1、日印租税条約における恒久的施設(PE)について。

 

租税条約とは、何かというと、国際取引から生じる所得について、居住地国と源泉地国の課税のあり方を調整することで国際投資や国際通商を促進するための国家間の取り決め、ということができます。

日印租税条約に限りませんが、租税条約及び各国の租税法において、恒久的施設(Permanent Establishment, PE)に関する規定がなされるのが通常です。PEとは、乱暴にいうと、企業が自社のビジネスの全部又は一部を行う拠点です。日本企業のPEが日本にあるのは自然なことで、税務上特に問題はないのですが、インドにある場合には、インドの国益を日本に持ち出す拠点となるため、インド政府はこれに対して特に課税をする必要があるのです。

租税条約上問題となるPEとは、国外居住者と同視できる拠点のことです。国外居住者は、本国に利益を持ち出すことが前提とされているため、拠点のある国で十分な税金を確保するために、PEのあげた利益にはPEの所在する国で課税をするということが必要となるのです。例えば、日本企業のPEがインドにあった場合、日本企業はその利益を出来る限り多く日本に持ち帰ろうとします。一方、インド政府は、日本企業のPEがインドの資源を利用してあげた利益については、全額日本に持ち帰らせず、インド国内で納税をすることを求めます。インド居住者たる法人等の拠点はインドに利益をもたらすことが前提とされているため、税率は低い(1年間の課税所得に対して約27%)ですが、PEとなると急に税率が上がる(PEを通して行われた各取引の売上総利益の約43%)ため、注意が必要です。

下記では、日印租税条約5条によってPEがどのように規定されているのかと、その留意点等をみてみます。

 

2、恒久的施設の定義(51)

「事業を行う一定の場所であって企業がその事業の全部又は一部を行っている場所をいう」と規定されます(日印租税条約5条1項)。

英語版だと

permanent establishment means a fixed place of business through which the business of an enterprise is wholly or partly carried on.(Paragraph 1 of Article 5, the India Japan DTAA)

と書かれています。日本語の方は意味がわからないですが、英語の方は言いたいことがわかります。要するにある企業が自社のビジネスの全部又は一部を行う拠点です。この条文単独によって恒久的施設の認定されることはなく、実際には52以下の個別の規定によって認定がなされます。

 

なお、日印租税条約締結の際の使用言語に関してですが、2006年の議定書への署名の際に日本語、ヒンディー語、英語の3通の租税条約が作成されました。そして、2006年の日印租税条約締結の際の議定書には、最後の部分に以下のような一文が書かれています。

「二千六年二月二十四日に東京で、ひとしく正文である日本語、ヒンディー語及び英語により本書二通を作成した。解釈に相違がある場合には、英語の本文による。」

つまり、日印租税条約の条文を読む際には英語の条文は無視できないということです。(*1*2)

 

3、場所PE(Fixed place PE)(52)

一定の不動産の上に拠点を構えた場合の、その場所をPEとみなすものです。支店(a branch)、工場(a factory)、作業場(a workshop)、店舗その他の販売所(a store or other sales outlet)、などです。

日本企業がインドに子会社のような形で法人を設立した場合には、原則としてこれに含まれません。インドで法人を設立した場合、インド法人から株主である日本本社に送金をしようとしても、それが配当による還元や借金の形をとらざるを得ないなど、制約が多く、原則としてインド国内で資本を利用することが求められます。一方で支店の場合は原則として、支店であげた純利益のうち、営業によってあげた利益であると証明した場合にはインド準備銀行(RBI)の承認なく送金できるなど、制約が少ないのです(*3)。このような事情もあり、支店はPEとして扱い、法人税率を高く設定することになるのです。支店に限らず、法人以外の拠点の多くは同じような扱いとなります。ただし、駐在員事務所は法人ではないもののPEとならないとされています。これは下記(4)で触れます。

 

4、出向者PE(Service PE)

出向者PEとは、一方の締約国の企業の従業員が他方の締約国の企業等に出向して一定のサービスを提供した場合に当該他方の国の企業等が一方の締約国の企業のペと認定されるということをいいます。例えば、日本法人がインドに対して場所PE等を有していない場合であっても、日本法人で雇用されている人材をインドの拠点に送って、インドの拠点にて日本法人が利益を上げるための活動に従事していればそのインド拠点はPEと認定されます。

これに関して、日印租税条約には規定がありません。しかし、米印租税条約など、各国の租税条約には規定があります。そして、租税条約の趣旨が税源侵食の防止にあるということから、日印租税条約においても、サービスPE51項又は2項類推適用を根拠として認められると考えられています(*4)

参考として米印租税条約5条(2)(l)の条文を載せておきます。これがサービスPE認定の一つの基準となることは確かでしょう。

[米印租税条約5(2)(l)]

the furnishing of services, other than included services as defined in Article 12 (Royalties and Fees for Included Services), within a Contracting State by an enterprise through employees or other personnel, but only if: 

(i) activities of that nature continue within that State for a period or periods aggregating more than 90 days within any twelve-month period ; or 

(ii) the services are performed within that State for a related enterprise [within the meaning of paragraph 1 of Article 9 (Associated Enterprises)]. 

 

過去の判例を見ると、出向者の給与が本国法人から支払われているか、本国法人によって一定の額保証されている場合には、サービスPEと認められやすくなることがわかります。例えば以下の判例などです。

 

  • reference was made to Para 17 of the judgment in DIT v. Morgan Stanley (2007) 7 SCC 1, where the Court held:

17…… It is important to note that where the activities of the multinational enterprise entails it being responsible for the work of deputationists and the employees continue to be on the payroll of the multinational enterprise or they continue to have their lien on their jobs with the multinational enterprise, a service PE can emerge.

 

5、建設PE(Construction PE)(53, 4, 5)

日印租税条約53には、「建築工事現場又は建設、据付若しくは組立工事は、六箇月を超える期間 存続する場合に限り、「恒久的施設」とする。」との規定がなされています。

さらに、日印租税条約54項には、「企業が一方の締約国内における建築工事現場又は建設、据付若しくは組立工事に関連して、六箇月を超える期間、当該一方の締約国内において 監督活動を行う場合には、当該企業は、当該一方の締約国内に「恒久的施設」を有し、当該「恒久的施設」を通じて事業を行うものとされる。 」との規定があります。

 

先進国が発展途上国と租税条約を締結する際には建設PE認定範囲は広くなる傾向になります。例えば、5条3項の建設PE認定のための期間について、日本が他の先進国と締結する租税条約ではこの期間は12ヶ月とされることが多いです(日米租税条約など)。また、日本が他の先進国と締結する租税条約には、54項のような規定はありません。例えば、日本法人が建設工事の監督のみを行い、実際の建設工事は現地企業が行うという場合、日印租税条約上はPEがあると認定されますが、日本と他の租税条約の間ではPEと認定されません。

6、準備的、補助的な活動(56)

日印租税条約56(a)には以下のように規定されています。

条約第五条の規定にかかわらず、次の活動を行う場合には、「恒久的施 設」に当たらないものとする。ただし、その活動(次の(c)の規定に該当 する場合には、次の(c)に規定する事業を行う一定の場所における活動の 全体)が準備的又は補助的な性格のものである場合に限る。 

(a) (i) 企業に属する物品又は商品の保管又は展示のためにのみ施設 を使用すること。 

(ii) 企業に属する物品又は商品の在庫を保管又は展示のためにの み保有すること。 

(iii) 企業に属する物品又は商品の在庫を他の企業による加工のた めにのみ保有すること。 

(iv) 企業のために物品若しくは商品を購入し又は情報を収集する ことのみを目的として、事業を行う一定の場所を保有すること。 

 

企業の拠点の活動が準備的、補助的な性格の活動の場合の場合には、上記に当てはまる場合でも、PE認定されません。典型例は駐在員事務所などです。駐在員事務所(Liason Office)では、 インド準備銀行などに届け出た内容の活動しか許されず、原則として営業活動は許されません。駐在員事務所は5152によって場所PEがあると認定されそうなものですが、本件規定でいう準備的・補助的な性質(preparatory or auxiliary character)の活動に限定されているため、PEと認定されません。もちろん、営業活動によって本国企業のために利益を上げた場合には、5条2の「支店」や「店舗」に該当するとしてその利益にPEとしての課税がなされることとなります。

 

7、代理人PE(Agency PE)(57)

日印租税条約57(a)には以下のような規定があります。英語では代理人PEについて、下の独立代理人と区別する意味も込めて、Dependent Agency Permanent Establishment (DAPE)などといいます。

条約第五条の規定にかかわらず、BEPS防止措置実施条約第十二条 2の規定が適用される場合を除くほか、一方の締約国内において企業に代わって行動する者が、そのように行動するに当たって、反復して契約を締結し、又は当該企業によって重要な修正が行われることなく日常的に締結される契約の締結のために反復して主要な役割を果たす場合において、これらの契約が次のいずれかに該当するときは、当該企業は、その者が当該企業のために行う全ての活動について、当該一方の締約国内に恒久的施設を有するものとする。 ただし、当該活動が当該企業により当 該一方の締約国内に存在する当該企業の事業を行う一定の場所で行われ たとしても、条約第五条の規定に規定する恒久的施設の定義に基づいて、 当該事業を行う一定の場所が恒久的施設を構成するものとされない場合 は、この限りでない。 

(a) 当該企業の名において締結される契約
(b) 当該企業が所有し、又は使用の権利を有する財産について、所有権を移転し、又は使用の権利を与えるための契約 

(c) 当該企業による役務の提供のための契約 

 

この条項は、202041日より新たに発効することとなる、MLIによる修正後の租税条約においてもっとも重要な変更のあった部分と言っても過言ではありません。PE認定のための要素は、

[A]

(1)一方の締約国内において企業に代わって行動する者が、

(2)反復して契約を締結し、

(3)その契約が(a)(b)(c)のいずれかに当たること、

または、

[B]

(1)一方の締約国内において企業に代わって行動する者が、

(2)当該企業によって重要な修正が行われることなく日常的に締結される契約の締結のために反復して主要な役割を果たすこと、

(3)その契約が(a)(b)(c)のいずれかに当たること

と分解できます。

これが適用される状況の例としては、日本法人がインド顧客に対して製品を販売するに際して、インド子会社による販売・マーケティングサポートをしている場合に、インド法人が日本法人に代わって反復して契約を締結したり、契約締結のための主要な役割をしたりする状況が考えられます。この場合、インド子会社が日本法人の代理人PEに認定されると、日本法人は、インド顧客から受ける製品の対価の内、総利益の40%以上をインドで納税する必要が生じます。(*5)これは、インド顧客が支払いの際にインド政府に対して源泉徴収して支払われることとなります。

 

MLIの導入によって、[B]が新たに導入されたことが一番大きな変更点です。

「主要な役割を果たすこと(play a principal role)」という条項が入ったことで、インドにおいて、日本法人の代理人PE(DAPE)が認められる範囲が広範になりました。これは、BEPS行動計画7の内容である、「恒久的施設(PE)認定の人為的回避の防止」を達成するために、状況を実質的に判断しようとする流れから来ています。

「主要な役割を果たすこと(play a principal role)」の明確な定義は条文には書かれていません。OECD発表のガイダンス資料によると、以下が考慮するべき事項となっていることが伺えます(*6)。

 

[状況]

・日本法人がインドに子会社を持っている状況です。日本法人がインド顧客に物品やサービスを販売しています。インド子会社が日本法人のマーケティング・サポートを行っています。日本法人は、コミッションとして販売益の一部をインド法人に支払います。

[「主要な役割」等の認定やPE帰属利益算定のための留意点]

・インド子会社が顧客の発見(identify)、契約の締結の勧誘(solicite)、顧客の注文に応じた契約の締結(placing and processing customer order)を行なっているときはPE認定のリスク及びPE帰属利益の認定リスクは高まります。

・インド子会社が日本法人の策定したマーケティングや広告戦略をインドで実行している場合にはPE認定のリスク及びPE帰属利益の認定リスクは高まります。

・日本法人がインド顧客との契約の締結及びインド顧客からの支払いの受取、信用リスク(credit risk)の負担をしている場合には状況にもよりますが、認定されにくくなる方向になります。

・日本法人がインド法人のマーケティング業務の対価としてコミッションを支払う場合、これが小さすぎるとPE認定のリスク及びPE帰属利益の認定リスクは高まります。

・インド法人と顧客との間で、日本法人より、販売ライセンスが独占的に与えられるような場合にはPE認定のリスク及びPE帰属利益の認定リスクは高まります。

・インド法人が日本法人の販売する製品の在庫を管理する場合(在庫リスク(inventory risk)をインド法人が負担する場合)にはPE認定のリスク及びPE帰属利益の認定リスクは高まります。

・製品が日本法人からインド顧客に引渡されるまでの過程の製品への所有権等の権利を保有する場合、インド法人がPE認定されるリスク及びPE帰属利益の認定リスクは高まります。

・日本法人がインド法人のサポートによって販売される製品以外にインドで製品を販売していない場合、PE認定のリスク及びPE帰属利益の認定リスクは高まります。

 

 

上記は、PEの有無だけでなく、PE帰属利益の割合を評価する際の指標ともなるものです。インド子会社がPEと認定されるかどうかというのは、実はそれ自体大きな問題ですが、それと同じくらい、PEへの帰属利益がどの程度なのかという点も重要です。

上記の点は、考慮要素の一例であり、契約状況によってはPEリスクを低減する方向にも上昇させる方向にも動きます。

 

8、独立代理人の場合の例外規定(Independent Agent)(58)

日印租税条約5条8

2 BEPS防止措置実施条約第十二条1の規定は、一方の締約国内にお いて他方の締約国の企業に代わって行動する者が、当該一方の締約国内 において独立の代理人として事業を行う場合において、当該企業のため に通常の方法で当該事業を行うときは、適用しない。ただし、その者は、 専ら又は主として一又は二以上の自己と密接に関連する企業に代わって 行動する場合には、当該企業につき、この2に規定する独立の代理人と はされない。 

 

上記の日印租税条約57代理人PEに関する規定は、インド側での日本法人の代理人が、日本法人から全く独立した当事者出会った場合には適用しないというものです。

 

9、関連当事者に関する規定(59)

日印租税条約59

 条約第五条の規定の適用上、ある者とある企業とは、全ての関連する 事実及び状況に基づいて、一方が他方を支配している場合又は両者が同 一の者若しくは企業によって支配されている場合には、密接に関連する ものとする。いかなる場合にも、ある者とある企業とは、一方が他方の受 益に関する持分の五十パーセントを超えるもの(法人の場合には、当該 法人の株式の議決権及び価値の五十パーセント又は当該法人の資本に係 る受益に関する持分の五十パーセントを超えるもの)を直接若しくは間 接に所有する場合又は他の者がその者及びその企業の受益に関する持分 の五十パーセントを超えるもの(法人の場合には、当該法人の株式の議 決権及び価値の五十パーセント又は当該法人の資本に係る受益に関する 持分の五十パーセントを超えるもの)を直接若しくは間接に所有する場 合には、密接に関連するものとする。 

 

日本法人がインド法人の株式を50%以上保有している場合など、一定の場合にはインド法人を日本法人の「密接に関連する者」(a person closely related to an enterprise’)と規定して、PE認定の対象とするという規定です。

 

*0[https://www.forbes.com/profile/masayoshi-son/?list=billionaires#5fc9a28b3818]

[https://www.indiatvnews.com/business/news-mukesh-ambani-reliance-zero-net-debt-firm-ahead-of-schedule-613175]

*1[http://www.oecd.org/tax/treaties/beps-mli-position-india-instrument-deposit.pdf]

*2[https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/international/tax_convention/press_release/index.htm]

*3[Foreign Exchange Management (Establishment In India Of Branch Or Office Or Other Place Of Business) Regulations, 2000 の第7条]

*4「インドの会計・税務・法務 第3版」(新日本有限責任監査法人) p179

*5[https://www.incometaxindia.gov.in/Pages/i-am/foreign-company.aspx]

*6[https://www.oecd.org/tax/transfer-pricing/BEPS-discussion-draft-on-the-attribution-of-profits-to-permanent-establishments.pdf]

6月1日から段階的なロックダウン解除へ(UNLOCK-1)

前置き

昨日5月30日に、政府通達が内務省(Ministry of Home Affairs)より発表され、6月1日以降、3つのフェーズに分けてロックダウンが段階的に解除されることが発表されました。

今のところ、6月8日からレストランやショッピングモールが再開となる見込みです。メトロの再開はフェーズIIIなので、時期は未定ですがおそらく6月下旬となるのでしょう。懸念事項は、グルガオン市内での感染確認者数が急増していることです。5月31日時点で累計677人、直近の三日で300人以上の拡大です。僕のスマホに入っているコロナ追跡アプリのAarogya Setuによると、僕の半径2km圏内で28人陽性患者が確認されたとのことです。グルガオン当局によると大抵は無症状の患者だったため、心配することはないとのことですが、気は抜けません。

 

カフェはよく利用していたので、個人的に一番朗報です。いつも使っていたのは24時間オープンのDribble Cafeというところです。再開はしても24時間オープンは6月30日までは厳しそうです。2ヶ月半カフェにもレストランにも行かなかったのは、高校生以来でしょうか。おそらく約10年ぶりだし、結婚でもしないかぎり再びこんな時期が来ることはないでしょう。日本人が気を揉む国際線の飛行も、まだ完全自由化はされません。6月中は日印間ではエア・インディア機が数便飛ぶだけという状況は変わらないでしょう。

 

(以下は通達の翻訳です)

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フェーズごとの再開のためのガイドライン(Unock-1)

 

2020年5月30日発表の内務省(Ministry of Home Affairs, MHA)通達(通達番号: 40-3/2020-DM-1(A))

 

1、Containment Zones(封じ込めゾーン)を除く場所でのフェーズごとの段階的な活動再開

封じ込めゾーン外のエリアでは、以下の許可されているものを除き、すべての活動が許可されます。ただし、家族福祉省(MohFW)により定められる、標準的再開手続( Standard Operating Procedures, SOPs)に従うことが要求されます。

 

フェーズI

次の活動は、2020年6月8日から許可されます。

(i)公共に開かれた宗教的施設や礼拝施設での活動。

(ii)ホテル、レストラン、その他の接客サービス。

(iii)ショッピングモール。

厚生労働省(MoHFW)は、関係する中央省庁や他の利害関係者と協議して、社会的距離を確保し、COVID-19の拡散を阻止するために、上記の活動に対して標準的再開手続(SOPs)を発表する予定です。

 

フェーズII

学校、大学、教育・訓練・コーチング機関などは、州および直轄領政府との協議の後に再開されます。州政府/ 直轄領政府の当局は、親や他の利害関係者との機関レベルで協議を行うことが推奨されます。その後フィードバックに基づき、これらの機関の再開については、2020年7月に決定されます。

MoHFWは、この点に関して、関係する中央省庁や他の利害関係者と協議して、社会的距離を確保し、COVID-19の拡大防止を確実にするための標準的再開手続(SOPs)を準備します。

 

フェーズIII

状況を評価した上で、次の活動を再開するための日付が決定されます。

(i)MHAで許可されている場合以外の国際旅客機の運航

(ii)メトロ列車の運行

(iii)映画館、体育館、プール、娯楽公園、劇場、バー、講堂、集会所及び類似の施設

(iv)社会的/政治的/スポーツ/娯楽/学問的/文化的/宗教的機能およびその他の大きな集会。

 

  1. COVID-19管理のための国家指令

附属資料I に規定されているCOVID-19管理のための政府指示(National Directives)は、全国で引き続き遵守される必要があります。

 

3.夜間外出禁止令

個人の移動は、必須の活動を除いて、全国で午後9時から午前5時までの間、厳格に禁止されます。地方自治体は、管轄区域全体で、刑事訴訟法(CrPC)の第144条などの適切な法律の規定の下で命令を発行し、厳密なコンプライアンスを確保するものとします。

 

4.封じ込めゾーンに限定された封鎖

(i)ロックダウンは、2020年6月30日まで、封じ込めゾーンでは引き続き効力を有します。

(ii)封じ込めゾーンについては、MoHFWのガイドラインに則って、地区当局により境界線が定められます。

(iii)封じ込めゾーンでは、必須の活動のみが許可されます。医療上の緊急事態や重要な商品やサービスの供給を維持する場合を除いて、これらのゾーンの内外で人々が移動しないようにするために、厳格な境界管理が行われます。封じ込めゾーンでは、集中的な人々の接触状況の追跡、家ごとの監視、およびその他の臨床目的の介入が行われます。上記の目的達成のため、MoHFWの必要なガイドラインが取り入れられる必要があります。

(iv)州や直轄領政府は、封じ込めゾーンの外側に緩衝地帯(Buffer Zones)を指定することもできます。これは緩衝地帯内で新しい感染ケースが発生する可能性が高いためです。必要に応じて地区当局が制限を設けることができます。

 

5.州/ 直轄領政府は、状況の評価に基づいて、封じ込めゾーン外での特定の活動を禁止するか、必要と見なした制限を課すことができます。

 

6.人や物の無制限の移動

(i)人および物品の州間および州内の移動に制限はされません。このような移動のために、個別の許可、承認又はオンライン許可証明書は必要ありません。

(ii)ただし、公衆衛生上の理由とその状況の評価に基づいて、州/ 直轄領政府が人の移動を規制することを提案する場合、そのような移動に課される制限と関連する手順について事前に広く周知されます。

(iii)旅客列車および労働者用特別列車(Shramik special trains)による移動、国内旅客機の運航、国外に足止めされたインド国民の移動、および特定の人の海外への渡航、外国人の退避、およびインド人船員の出入国は、発表された標準的再開手続(SOPs)に従って引き続き規制されます。

(iv)州/ 直轄領政府は、近隣諸国との条約に基づく国境をまたぐ貿易については、いかなる種類の貨物の移動も停止することはできません。

 

7.脆弱な人の保護

65歳以上の人、並存疾患のある人、妊娠中の女性、10歳未満の子供は、必須又は健康上の目的の場合を除き、家にいることが推奨されます。

 

8.アーロギャ・セ​​トゥの使用

(i)Aarogya Setuは感染の潜在的なリスクを早期に特定できるため、個人およびコミュニティの防御壁として機能します。

(ii)オフィスや職場の安全を確保する観点から、使用者は最大限の努力をもって、対応した携帯電話を持つ全ての従業員によってAarogya Setuが確実にインストールされるように徹底する必要があります。

(iii)地区当局は、対応した携帯電話を有する場合、Aarogya Setuアプリケーションをインストールし、アプリの健康状態を定期的に更新するように個人にアドバイスする場合があります。これは、感染リスクにさらされた個人への迅速な医療処置の提供を容易にするものです。

 

9.ガイドラインの厳格な執行

(i)州/ 直轄領政府は、2005年の災害管理法に基づいて発行されたこれらのガイドラインをいかなる方法でも緩和してはなりません。

(ii)すべての地区治安判事は、上記の措置を厳格に実施するものとします。

 

10.罰則

これらの措置に違反した人物は、インド刑法(IPC)の第188条に基づく法的措置、およびその他の該当する法律の条項に加えて、2005年の災害管理法の第51条から第60条の規定に従って訴追される対象となることがあります。 これらの規定の抜粋は附属書IIにあります。

 

 

付属書類I

 

COVID-19の対策のための国家指示(National Directives)

 

1.顔を覆うこと:公共の場所、職場、移動中にマスクを着用することは必須です。

2.社会的距離:個人は公共の場では最低でも6フィート(約1.8メートル)の社会的距離を取ることが要求されます。

商店は客が社会的距離を取り、一度に5人以上入場しないよう徹底する必要があります。

3.集会:大規模な公共の場での集まりや集会は引き続き禁止されます。

結婚式関連の集会:集まる人の数は50人以下とすること。

葬式や臨終の儀式関連の集会:暑舞う人の数は20人以下とすること。

4.公共の場で唾を吐くことは罰金を科される対象となります。州/直轄領政府によって関係法令に従った詳細の発表がなされます。

5.公共の場での酒、パーン、噛みタバコ、火タバコ等の消費は禁止されます。

 

職場に関する追加の指示

6.在宅勤務(WfH):可能なかぎり在宅勤務の形態が取られるべきです。

7.労働時間、営業時間の分散:事務所、工場、店舗、マーケット、製造・商業施設では労働時間や営業時間が分散するよう調整する必要があります。

8.検査及び消毒:人の集まる場所、入り口、出口では体温計と手の消毒用品が常備される必要があります。

9.頻繁な消毒:職場全体、よく利用される設備、人が接触する物品(ドアノブなど)がシフトの間及び交代の際にされることが必要です。

10.社会的距離:職場に出勤するすべての従業員がお互いに十分な距離の確保、シフト間に十分な時間な時間の確保、昼食の時間の分散等を徹底することが必要です。

 

 

 

Annexure II(付属書類II)

 

ロックダウンの処置への違反及び罰則の規定

 

(細かい法律論になるので割愛させていただきます)

 

参照:

https://timesofindia.indiatimes.com/city/gurgaon/in-3-days-gurgaon-reported-more-corona-cases-than-it-did-in-2-months/articleshow/76114331.cms?utm_source=twitter.com&utm_medium=social&utm_campaign=TOIGurgaon

https://www.mha.gov.in/sites/default/files/MHADOLrDt_3052020.pdf

2020年4月1日から改正された日印租税条約が発効しています

前置き

 

 最近のコロナ感染者の状況

 2020530日時点で、新型コロナウィルス感染者数は、世界では累計感染者592万人(死者36.4万人)、インドでは累計感染者17.4万人(死者4971人)、日本では累計感染者16759人(死者882人)となっています。

 明日(2020531日)でロックダウン4.0が終了します。ここまで振り返ると、322日(1日お試し)、2020324-414日、415-53日、54-517日、518-531日と、とんでもない期間家に引きこもっていたことになります。僕の会社は1週間早めに自宅勤務を取り入れたので約2ヶ月半、自宅でひっそりとしていたことになります。僕の家は4階建で地下もあり、日本人が約10人住んでいたのですが、僕以外帰国し、JAL,ANAのインド便が飛ばないため7月以降まで日本に残る予定です。家にすみこむハウスキーパーの人と、家の前の門番の人以外特に人と会うこともないという状態でした。色々な人とZoomwhatsappLineで話すので気晴らしにもなってインターネットが仕事の必需品というより生きる上での必需品となったことを感じました。

 日本では525日に非常事態宣言解除されました。インドやニューヨークでの感染拡大の情報を見知った上で日本のウィルス封じ込め情報を聞くと、国民の意識レベルでウィルスへの意識が違うのだと感じざるを得ません。

 5月に入って気温は上がり続け、最近は最高47度、最低30度という状態です。日本より湿度が低いため、日本でいう最高35度、最低25度くらいのイメージです。先週2日ほど停電があった時は死にかけました。最近のニュースとしては、デリーでこの時期の最高気温が18年ぶりに更新されたこと、インド東海岸のオリッサに巨大サイクロンが到来したこと、などです。

 個人的に気になった話題はLocust(サバクトビバッタ)の情報です。北アフリカからやってくるバッタのことで、アラビア半島を経て、インドに侵入してきました。その数推定4000億匹です。グルガオンのあるハリヤナ州でバッタが確認され、グルガオンとデリーにも到来すると警報が出されました。日本でいろんな警報は見てきたけれどLocust Alertを見かける日が来るとは思いもしませんでした。対策は窓とドアを密閉することくらいです。飛行機や地上のホースで薬を撒くのが有効らしいですが、個人レベルではできることはあまりありません。

 ロックダウン4.0では、かなりのオフィスが再開して、僕の会社のクライアントや知り合いの会社も続々と会社に通勤していました。唯一の足かせはメトロが6月にならないと動かないことで、自動車、バスは相当自由に行き来している状態でした。これ以上ロックダウンはできないので、今後は経済活動をフルで認めていく方向にシフトします。

 先日513日から517日にかけて、ニルマラ・シタラマ財務大臣より総額20兆ルピーの経済政策が発表されました。テーマはMSME(中小零細企業)や農家、日雇い労働者向けの政策が大半を占めましたが、給与以外のTDS/TCS25%カット、EPF(Employment Provident Fund、従業員積立基金)の積立額を使用者・被傭者ともに12%ずつだったものが10%ずつになるなど、日系企業も影響を受けるものが一定数ありました。航空業界改革、物流の改善等、日系企業に間接的にプラスの影響を与える政策が複数発表されました。今後の経済成長に期待がかかります。

 

 

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国連のLocust対策ページより(国連のLocust監視機関があることをはじめて知りました)。成虫は2-4ヶ月生き、10日で5000km移動できるというデータがあります。風に乗りつつ植物があるところを移動して行きます。

 

 

1、日印租税条約

 202041日に、日印両政府による修正済みMLIへの批准が発効しました。今日はMLIと日印租税条約について簡単に書いてみます。まず、租税条約とは何かというと、国際取引から生じる所得について、居住地国と源泉地国の課税のあり方を調整することで国際投資や国際通商を促進するための国家間の取り決め、ということができます。日印租税条約とは、2006年に締結された日本とインドの間の二重課税防止のための条約です。複数回改正を重ねて現在で継続しています。このような租税条約はDTAA(Double Tax Avoidance greement)やCTA(Covered Tax Agreement)などと呼ぶことが多いです。租税条約の基本については、2020510日の記事で掘り下げています。

 

2、MLI

 MLIとは何かというと、OECD(経済協力開発機構)が策定した、BEPS行動計画を実行するために策定された多国間条約です。英語ではMultilateral Instrument to Implement Tax Treaty Related Measures to Prevent BEPS を省略して”the MLI”といいます。

 OECD(Organization for Economic Co-operation and Development)とは、ヨーロッパや世界37カ国からなる、世界経済について協議するための国際機関です。日本は参加していますが、インドは2020年5月現在、加盟していませんが、OECD諸国の政策は積極的に従う姿勢をとっています。

 BEPS(Base Erosion and Profit Shifting、税源侵食と利益移転)とは、多国籍企業等の法人が税率の高い場所から低い場所へ利益を移転(shift)させ、本来課税がなされるべき地点である税源(Tax-Base)を侵食(erode)する法人税プランニングのことをいいます。これは各国の税法や国際課税原則に則ると合法であるものの、企業が本来法人税を課されるべきであるのにこれを避けているということを問題視して発達した概念です。

 BEPS行動計画(Action Plan on Base Erosion and Profit Shifting)とは、OECD諸国で定めた、BEPS防止のための行動計画です。具体的な行動計画としては15の項目が挙げられています。MLI策定は15個目の行動計画の実行に関するものです。

 乱暴にいうと、MLIとは、各国の租税法や二国間の租税条約の濫用による租税回避を効率的に防止するための多国間の条約といえます。

 

 以下がOECDによって発表されているBEPS行動計画15項目です。

行動計画1:電子経済の課税上の課題への対処

行動計画2:ハイブリッド・ミスマッチ取極めの効果の無効化

行動計画3:外国子会社合算税制の強化

行動計画4:利子控除制限ルール

行動計画5:有害税制への対抗

行動計画6:租税条約の濫用防止

行動計画7:恒久的施設(PE)認定の人為的回避の防止

行動計画8‐10:移転価格税制と価値創造の一致

行動8:適正な移転価格の算定が困難である無形資産を用いたBEPSへの対応策

行動9:グループ内企業に対するリスクの移転、過度な資本の配分等によって生じるBEPSの防止策

行動10:その他移転価格算定手法の明確化やBEPSへの対応策

行動計画11BEPSの規模・経済的効果の分析方法の策定

行動計画12:義務的開示制度

行動計画13多国籍企業の企業情報の文書化

行動計画14:相互協議の効果的実施

行動計画15:多数国間協定の策定

 

 MLIOECD及びG20によって採用された租税条約の雛形で、合計39条あります。租税条約を既に締結している2カ国の間で、取り入れるMLIの条文を合意し、それに基づいて租税条約がMLIによって修正されることとなります。

 MLIの条項が効力を有するには以下の6つの条件全てを満たしていることが必要です。

1、両国間でMLIに署名(日印はともに201767日に署名)

2、両国間でMLIが効力発生(インド:2019101日、日本:201911日)

3、両国間で別に二国間租税条約(Covered Tax Agreement)が締結されていることが必要(日印間には日印租税条約が既にあります)

4、各国が選択制の条文のうち採用するものを決定し、両国がともに選択(マッチング)した条文が効力を持つこととなります

5、両国からOECDに対して、MLIによって修正される租税条約の条文を通知

6、MLIによって修正された租税条約が両国間にて効力を発揮(日印間は202041日から効力を発揮します)

 

 2020428日現在:92カ国・地域が署名。内、42カ国・地域が批准書等を寄託。MLIの導入を希望する国はまずMLIに署名をしたのち、受託書を寄託し、一定の期間が経つまで待つ必要があります。

 

3、日本の導入したMLIの概要(財務省発表)

 本条約は、BEPSプロジェクトにおいて策定されたBEPS防止措置のうち租税条約に関連する措置を、本条約の締約国間の既存の租税条約に導入することを目的としている。

 本条約の締約国は、租税条約に関連するBEPS防止措置を多数の既存の租税条約について同時かつ効率的に実施することが可能となる。 

 本条約により導入可能なBEPS防止措置は、①租税条約の濫用等を通じた租税回避行為の防止に関する措置、及び、②二重課税の排除等納税者にとっての不確実性排除に関する措置から構成される。

 本条約の各締約国は、既存の租税条約のいずれを本条約の適用対象とするかを任意に選択することができ、また、本条約に規定する租税条約に関連するBEPS防止措置の規定のいずれを既存の租税条約について適用するかを所定の制限の下で選択することができる。

 

 

4、MLIの各条項と日印の採用状況

 

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MLIの条文のうち日印両国が合意したもののみが日印租税条約の修正に反映されます。

 

5、修正済み日印租税条約におけるPE(恒久的施設)

 上記の通り、202041日より、MLIによる修正済み日印租税条約が効力を発揮します。ここで最も気をつけたい規定が日印租税条約の57項(a)です。これについては長くなるので今度書いてみます。

 簡単に述べると、PE(恒久的施設)の認定の基準が変更され、よりPEの認定がされやすくなったというものです。海外に拠点を持つ企業は、その海外拠点が本国企業のPEと認定された場合、海外拠点で支払うべき税金の額が大変大きくなると同時に、計算が大変複雑になる(税務訴訟になりやすくなる)という問題があります。多くのコミッションビジネスが影響を受けることが予想されています。コミッションビジネスとは、海外拠点が本国企業の物品・サービスを販売するための販売促進活動を行い、本国企業から海外取引先に販売がされた時に手数料を本国企業から受け取るというビジネスモデルです。

 日本企業はインドに子会社を有する場合が多くありますが、このインド法人が新たにPE認定された場合、インドに収めるべき税金の額が大幅に増える可能性があります。PE認定されなかった場合はインドに収めるべき額が利益の額の約27%であったものが、PE認定された場合には最高で約43%になることがあります。

 

6、まとめ、

 今回のMLIの導入はインドと日本の間のビジネスに大きな影響を与えるものが多いです。今まで税務上問題がなかったビジネスモデルであっても、今後は税務調査の対象となったり、そこから税務訴訟に発展したりする恐れがあります。インドでは、税務関係の違反に関しては、懲罰金が取引額(税額ではなく)の3倍になることもあります。また、クロスボーダー取引に関してはPE問題や移転価格税制の問題等、多くの点に税務当局も目を光らせているため、総じて日本企業は注意しておく必要があります。

 また、インドはOECDに加盟しているわけではないですが、国際情勢には敏感で、BEPS行動計画1の電子経済の課税上の課題への対処も着々と進めています(国内法レベルでは法改正が進んでいます)。この点もアップデートに注意しておく必要があります。

 以上について気になった方は近くの会計事務所・法律事務所等に相談をしてみるのが良いでしょう。

 

参照:

[http://www.fao.org/ag/locusts/en/info/info/faq/index.html]

[https://nisso30.hatenablog.com/entry/2020/05/10/120556]

[https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/kokusai/beps/index.htm]

[https://www.oecd.org/tax/treaties/MLI-frequently-asked-questions.pdf]

[http://www.oecd.org/tax/action-plan-on-base-erosion-and-profit-shifting-9789264202719-en.htm]

5月18日から5月31日までLockdown第4弾に突入

1、最近のコロナウィルスの状況

(1) 2020517日時点で、世界では累計感染者数469万人、死者は31.3万人。インドでは累計感染者数9万人、死者2872人。日本では累計感染者数16253人、死者729人です。インドでは感染者数を抑制するためにロックダウンを延長したいものの、経済面で影響が強く出すぎているため、経済活動再開の方向にシフトしています。

 

(2) 2020512日にモディ首相は国民に向けてテレビ演説を行い、20兆ルピー(約30兆円)の経済政策を実施するという発表をしました。この政策の名前はAatma Nirbhar Bharat(आत्म निर्भर भारत)といい、「自立したインド」(Self Reliant India)という意味を指すようです。このコンセプトは、インドの産業を育て、世界情勢に影響されにくい国家になろうというものです。

 20202月の予算発表でも明言された”Make in India”と方向は同じでしょう。インドは慢性的に輸入超過の国となっており、輸出できる産業を育てることは長年の課題です。モディ首相は一つの例として、PPE(感染防止の個人防護具)を当初は自国で作成することができなかったが、今では20万セット製造しているということに言及しました。

 今回のスピーチでは、「自立したインド」に向けて、5つの柱が発表されました。それは経済、インフラ、システム、人口動態、需要、です。インドのインフラは、道路や電気、上下水道等、多くの点で課題とされているところだったこともあり、改めてテコ入れをすることが発表されました。また、中小零細企業(MSME)及び農業の支援が今後手厚く行われると発表されました。今回ロックダウンの影響を強く受けたのは中小零細企業や農家などの低所得者層でした。彼らの支援は政権の安定のために欠かせないものです。

 モディ首相は20兆ルピーの使われ方に関して、後日財務省から発表が行われる、と述べて詳細はニルマラ・シタラマ財務大臣に委ねました。財務大臣513日から517日にかけて、5回に分けて、各業界での政策を発表しました。今後のインドの産業がどこまで強くなるか、に期待がかかります。

 

2、内務省(Ministry of Home Affairs)がロックダウンの延長を発表しました。

前回の51日に発表された517日までのロックダウンよりも複数の点で規制が緩和されました。

僕なりの要点の整理は以下の通りです。

 

主な規制が強まった事項:

Containment zone では感染者の経路の把握のための規制がより強まりました。これは感染者が爆発的に増えている以上仕方のないことと言えるでしょう。

 

主な規制が維持される事項:

・メトロ等の電車の利用は貨物利用や特別に許可された場合以外原則として禁止されたままとなります。

・国内・国際線の旅客機は引き続き原則運行停止です。

・職場等でのAarogya Setuアプリの推奨すること。

・引き続きできる限り在宅勤務を推奨すること。

・職場や各種移動等に際してはSOPs(Standard Operation Procedures)に関する各種通達を作成、遵守すること

 

 

主な規制が緩和された事項:

・道路による州間移動(自家用車、バス、タクシー)が各州や直轄領政府の相互の許可があれば可能となりました。517日までは、州間の自動車による移動は特別な許可を取ることが原則だった(警察によって対応が別れるグレーゾーンだった)のですが、今後は州政府の方針により原則許可・原則禁止・条件付き許可、等の手段が取られる予定です。

・レッドゾーンでの散髪屋が解禁。レッドゾーンが多いデリー準州の方には朗報でしょう。

 

 

3、5月17日発表のロックダウン延長に関してゾーンごとの許可行為のまとめがTimes of India のネット記事に上がっていました。大変わかりやすいです。

 

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5月17日発表でのゾーンごとの許可行為の区分です。グリーン、オレンジ、レッドともに大きな違いはなくなっているといえます。



 

[https://timesofindia.indiatimes.com/india/lockdown-extension-news-india-whats-allowed-and-whats-not-in-the-three-zones/articleshow/75497261.cms]

 

 

[https://timesofindia.indiatimes.com/india/lockdown-4-0-heres-what-is-new/articleshow/75791271.cms]

 

 

日印租税条約(DTAA)の基本に迫る

前書き

 インドのコロナウィルスは約1ヶ月半で500人から始まり、先日6万人を突破しました。感染者の増加幅がとどまるところを知りません。日本は特に感染の爆発もなく、納まりつつあるようです。4月中旬まで日本はインドの対策の早さを見習ってほしいという意見だったのですが、今はインドに対して日本の衛生への意識の高さを見習ってほしいという意見に変わりました。

 517日にロックダウンが解除される予定ですが予断を許さない状況が続きます。54日に酒タバコの販売が各地で解禁されると酒屋の前に長蛇の列ができました色々な街の酒屋前の人々の密集と前の人に抱きついて割り込みを防止する姿の映像がツイッターで流れてきました。デリーでは酒屋に人が密集しすぎて3時間以上待ちの列もできました。ソーシャルディスタンスももちろん破られました。次の日、55日にデリー政府は酒に70%の税金を課すことを決定。異次元の政府対応の早さに目を惹かれたのですがそれもそのはずで、デリー政府の4月の税収は2019年の350億ルピーから30億ルピーまで、90%減少するという事態になっていたのでした。政府の財政的な無力化が懸念されるところです。

 最近は中国から生産拠点を移転することを望む海外企業を誘致するため、インド政府がルクセンブルク2倍の面積の土地を用意する予定であるということが報じられました。重厚長大の工業団地が広がるグジャラート州と、ITの叡智を終結するバンガロール要するカルナタカ州が候補地と目されています。今後の情勢に期待したいところです。

 今日は、日印租税条約というものについて書いてみます。ロイヤリティや技術支援料の話を書きたかったのですが、そこに行く前の段階で力尽きたので今度に回します。

 

1、日印租税条約の概要

 日印租税条約とは、2006年に締結された日本とインドの間の二重課税防止のための条約です。複数回改正を重ねて現在で継続しています。英語では、CONVENTION BETWEEN THE GOVERNMENT OF JAPAN AND THE GOVERNMENT OF THE REPUBLIC OF INDIA FOR THE AVOIDANCE OF DOUBLE TAXATION AND THE PREVENTION OF FISCAL EVASION WITH RESPECT TO TAXES ON INCOME といいます。このような租税条約は省略して「DTAA between India and Japan」などと呼ぶことが多いです。

 

2、租税条約とは

 まず、租税条約とは何かというと、国際取引から生じる所得について、居住地国と源泉地国の課税のあり方を調整することで国際投資や国際通商を促進するための国家間の取り決め、ということができます。

 

3、居住地管轄と源泉地管轄

 一般に、特定の国で一定の取引について課税をするという時には、国内の租税法に従いますが、これが複数カ国にまたがる取引の場合には各関係国の国内の租税法及び租税条約に従うこととなります。複数カ国にまたがる取引への課税をする際の管轄については、一般に居住地管轄(Taxtion based on residence jurisdiction)と源泉地管轄(Taxation based on source jurisdiction)の二つの考え方があります。

 居住地管轄に基づく課税とは、多くの場合、所得の源泉地に関わらず、課税対象者の居住地において課税対象者の全世界所得(world-wide income)に対して課税をすることをいいます。例えば、日本に居住する者がX国で取引をしたときに、居住地管轄に基づいて課税をする場合、その者がX国内で取引をしてあげた利益に対して、X国ではなく日本で所定の税金を徴収する(日本政府に納税する)ということになります。この場合税率は日本の租税法に従うこととなります。

 これに対して源泉地管轄に基づく課税とは、多くの場合、取引を行った者の居住地に関わらず、所得の源泉地(所得が産み出された場所)の国において稼得された所得(国内源泉所得、domestic source income)に対してのみ税金を課税することをいいます。例えば、日本に居住する者がX国内で取引をしたときに源泉地管轄に基づいて課税をする場合、X国で産み出された利益に関しては日本ではなくX国で所定の税金を徴収する(X国政府に納税する)ということになります。この場合の税率はX国内の租税法に従うこととなります。

 

 多くの国では居住地国課税と源泉地国課税との両方が用いられていますが、国によって居住性の判定基準や源泉所得の判定基準、税率等が異なるため、税額の規定のない空白の場面や二重課税がなされる場面が生じます。これでは、国際取引の流動性が阻害されるため、租税条約を国同士で締結することにより国際取引をする者に課税の予見可能性を十分に与えることが可能となるのです。条約と国内法の優先順位については、条約が優先するのが法律界では通例です。日本の場合、日本国憲法982項を根拠に条約が国内法に優先するとされています。もっとも、混乱を避けるため、各国の国内法及び租税条約において、国内法よりも租税条約の規定が優先することが規定されます(日本所得税法162条、法人税法139条、インド所得税法90条、日印租税条約231項など)。

 

4、外国税額控除と国外所得控除

 居住地国が国際的な二重課税を排除する仕組みとしては、外国税額控除(foreign tax credit)方式と、国外所得免除(exemption)方式の二つがあります。外国税額控除方式とは、居住者の全世界所得を居住地国における課税の対象に含めた上で、源泉地国デカされた税額を控除する方式です。国外所得免除方式とは、居住地国が国外源泉所得については課税の対象から除外する方式です。これは違いが生じないようにも思えますが、居住地国と源泉地国とで税額が異なる時に税額に違いが生じます。日印租税条約をみると、前者の外国税額控除方式が取られているといえます(日印租税条約232項)。

 

(参考)日印租税条約第二十三条 

1 いずれかの締約国において施行されている法令は、この条約において反対の規定が特に設けられている場合を除き、当該締約国において、引き続き所得の課税を規律するものとする。 

2 インドにおいては、二重課税は、次の方法により回避される。
(a) インドの居住者がこの条約の規定に従って日本国において租税を課される所得を取得する場合には、インドは、日本国において直接に又は源泉徴収により納付される租税の額を当該居住者の所得に対する租税の額から控除する。ただし、控除の額は、(当該控除が行われる前に算定された)所得に対する租税の額のうち日本国において租税を課される当該所得に対応する部分を超えないものとする。また、当該居住者がインドにおいて超過利潤税を課される法人である場合には、日本国において納付される所得に対する租税の額は、まず、インドにおいて当該法人に課される所得税の額から控除し、なお残額があるときは、インドにおいて当該法人に課される超過利潤税の額から控除する。
(b) インドの居住者がこの条約の規定に従って日本国においてのみ租税を課される所得を取得する場合には、インドは、当該所得をインドの租税の課税標準に含めることができる。ただし、所得に対する租税の額から日本国において取得する当該所得に対応する部分を控除する。 

 

5、日本国内法、インド国内法、日印租税条約上の「居住者」の認定とその課税範囲について

 

(1) 日本租税法(所得税法法人税法等)の場合

 日本租税法において「居住者」とは、国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて一年以上居所を有する個人をいいます(所得税法213号)。課税範囲は全世界所得です(同711号)「非居住者」とは、居住者以外の個人をいいます(所得税法21項4号)。課税範囲は日本での源泉所得です(同713号)。「内国法人」国内に本店又は主たる事務所を有する法人をいいます(同216号)。課税範囲は全世界所得です(法人税法5条)「外国法人」とは内国法人以外の法人をいいます(所得税法217号)。課税範囲は原則として日本での源泉所得です(法人税法91項)。なお、日本での源泉所得の範囲の内容については所得税法168条、法人税法138条に詳細が定められています。

「住所」については所得税法基本通達2-1に「人の生活 の本拠をいい、生活の本拠であるかどうかは、客観 的事実によって判定する」とあり、住所の概念は日本の民法上の住所の概念を借用しています(民法22条)。 また、民法上の住所の概念について「客観的な事実、 すなわち住居、職業、国内において生計を一にする配偶者その他親族を有するか否か、資産の所在等 に基づき判定するのが相当(最高裁昭和63715 日判決)」という最高裁判例が存在します。すなわち、日本では182日以上滞在したら居住者と認定する、といった規定は存在せず、対象者の住居、職業、配偶者その他の親族の有無、資産の所在等により総合的に「居住者」か否かを判断されます。

 

(2) インド所得税法の場合

 インド所得税法において「居住者(resident)」とは、前年度においてインドに182日以上滞在した者、又は前年度までの4年で365日以上滞在してかつ前年度に60日以上滞在した者(インド所得税法61項)です。その課税範囲は、全世界所得です(インド所得税法51項)。インド所得税法においては、「居住者」と似た概念に「非通常の居住者((Resident but)Not Ordinary Resident)」というカテゴリーがあり、これは前年度までの10年間で9年間非居住者であったか、前年度までの7年間のうち729日以下しかインドに滞在していなかった者です(インド所得税法66項)。「非居住者(Non Resident)」とは、「居住者」以外の者をいい、その課税範囲はインド源泉所得です(同52項)。なお、法人の場合、原則としてインドで登記された会社は「居住者」とみなされます(インド所得税法63項、226項)。RNORの課税範囲は明示はされていませんが、インド所得税法52項に当てはまり、インド源泉所得に課税がされると解釈できます。なお、インド源泉所得の範囲の内容については9条に詳細が規定されています。

 

(3) 日印租税条約の場合

 日印租税条約において「居住者」とは当該一方の締約国 の法令の下において、住所、居所、本店又は主たる事務所の所在地その他 これらに類する基準により当該一方の締約国において課税を受けるべき ものとされる者をいいます(租税条約41項)。自然人も法人も同じです。両方の国の居住者に当てはまる場合には両締約国の権限のある当局が、その者の事業の実質的な管理の場所、その者が設立された場所その他関連する全ての要因を考慮して、合意により、どちらの居住者かを決定します(同42項)。

 

(参考)日印租税条約第四条 

1 この条約の適用上、「一方の締約国の居住者」とは、当該一方の締約国 の法令の下において、住所、居所、本店又は主たる事務所の所在地その他 これらに類する基準により当該一方の締約国において課税を受けるべきものとされる者をいう。 

2 条約第四条1の規定によって両締約国の居住者に該当する者で個人以外のものについては、両締約国の権限のある当局は、その者の事業の実質的な管理の場所、その者が設立された場所その他関連する全ての要因を考慮して、合意によって、条約の適用上その者が居住者とみなされる 締約国を決定するよう努める。そのような合意がない場合には、その者は、条約に基づいて与えられる租税の軽減又は免除を受けることができない。 

 

(4) 具体例の検討

 上記の日本とインドの国内法をみると、自然人の場合には両方の国で居住者となることがあり得ます。例えば日本で仕事を持ち、住居も配偶者も資産も日本にあった人が、インドに出張に度々行って、訪問日数が182日を超え、インドで業務の報酬を受け取った場合には、その報酬について日印両国で課税がされる可能性が生じます。なぜなら日本の所得税法上日本の「居住者」と認定される可能性が高く、インドの所得税法上もインドの居住者に当てはまり、日印間の当局による合意がない場合には両国で課税されます。

 

6、まとめ

 租税条約を理解するには両国の租税法がきちんと理解できていることが必須となります。これに関する業務をこなせるのは日本語で書かれた法律と英語で書かれたインドの租税法の両方を読める必要があります。インド人からしても日本人からしても難しいですが、日本人の方に少し分があると言えるでしょう。頑張りましょう。

 日印租税条約には多くの論点があります。BEPS防止措置実施条約(MLI)の批准、居住性の判断、恒久的施設(PE)の判断、移転価格税制、配当税、ロイヤリティ使用料及び技術支援料、などです。今回はさわりの部分しか触れられませんでした。今後深掘りしていけたらと思います。

 

参照:

[https://www.incometaxindia.gov.in/booklets%20%20pamphlets/royalty-and-fees-for-technical-services.pdf]

『国際租税法・第3版』(増井良啓・宮崎裕子)

[https://www.mof.go.jp/english/tax_policy/tax_conventions/mli.htm]

[https://www.aoyama.ac/topic/topic075.pdf]

5月4日から5月17日までLockdown第3弾に突入

1、202051日にインド政府はロックダウン延長を決定。

   202051日、Ministry of Home Affairs(総務省)は、インド全土でのロックダウンを2週間延長することを決定しました*1。322日にロックダウンその1325-53日がロックダウンその254-517日がロックダウンその3がなされたということになります。ロックダウンその2はかなり厳格にインド全土を封鎖するというものでしたが、その3は地域ごとに厳格さを分けており、経済活動に相当程度配慮したものとなっています。

 以下の通達を見る限り、インド政府の方針としては、今までの全国で完全封鎖という方針は撤回されています。そして、感染が拡大している地域では厳格なウィルスの移動の管理をしてかつ経済活動も行い、感染の少ない地域では最大限に経済活動を認めて雇用を生み出すという方針になっています。

 Aarogya Setuという政府公認のアプリがあり、これが登録者の移動した情報や他の登録者との接触の情報を全て把握できるようになっています。この使用は今までは推奨というレベルに留まっていたのですが、今後は、封じ込めゾーンと事業を再開した職場では基本的に強制となることが定められています。

 インドのような、人口に比して医療施設が少ない環境で、経済活動を行いつつコロナも封じ込めるとなると、このような最先端のテクノロジーを用いることが最適といえるでしょう。フランスや日本ではこのようなアプリの仕様はプライバシーや個人情報保護の観点から見送られましたが、中国ではこれが導入され、コロナ封じ込めのために一定の成果を挙げているといいます。*2

 僕もこのアプリを導入したのですが、20秒で問診を終えた後はただ放置するだけです。そのうち僕がコロナウィルス保有者と接触した時にはアラートが送られる予定です。とにもかくにも、インドでの一刻も早い経済活動の再開が望まれます。

 

*1[https://www.mha.gov.in/sites/default/files/MHA%20Order%20Dt.%201.5.2020%20to%20extend%20Lockdown%20period%20for%202%20weeks%20w.e.f.%204.5.2020%20with%20new%20guidelines.pdf]

*2[https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/world/00187/]

 

2、2020年5月1日通達の概要

(1)、ロックダウンは54日から2週間延長します。全国をグリーンゾーン、オレンジゾーン、レッドゾーン、に分けて、別々の規制を敷きます。

(2)、各ゾーンの振り分け方

・グリーンゾーン:過去21日でコロナ患者の確認件数が0の地域

・オレンジゾーン:レッドゾーンとグリーンゾーン以外の地域

・レッドゾーン:保健家族福祉省(Ministry of Health Family welfare)及びインド中央政府(Government of India)が治療中の件数、確認件数が2倍になるスピード、調査のフィードバック等、を考慮に入れて決定された地域。ホットスポットと同義。

(3)、Containment Zone (封じ込めゾーン)の決定

・州政府が保健家族福祉省のガイドラインに従ってオレンジゾーンとレッドゾーンの中に封じ込めゾーンを指定します。

・封じ込めゾーン内では、Standard Operating Protocols(運営の基本指針)を定めること。

・封じ込めゾーン内ではAarogya Setu(आरोग्य सेतु、健康への架け橋)というアプリを全ての人が使用するように地方当局が徹底することとされています。このアプリはアプリ登録者の位置情報とブルートゥースの両方を用いて、人々の接触を記録し、人の感染が確認されると、その人と数日以内に接触した人に対してアラートを発するというアプリです。これは3月から政府が推奨していたアプリで、現在5000万人以上がダウンロードをしたとのことです。

(4)、以下の行為は全国で禁止されます。

一定の緊急の場合を除き、国内及び国際航空便の運航停止。

一定の許可された場合を除き、原則としてバス、電車、地下鉄の運航停止。

緊急の場合を除いて州間移動の禁止。

オンラインを除き学校や塾、訓練施設、コーチングの禁止。

ショッピングモールや映画館、バー、ホール、遊園地、プール等の閉鎖。

(5)、人々の健康と安全のための規定

・午後7時から午前7時までは移動禁止。警察は刑事訴訟法百四十四条の適用も辞さない。

65歳以上の人と妊婦、10歳以下の人は原則として外出禁止。

Out Patient Department(一般外来)はグリーンゾーンとオレンジゾーンに置いて、Social Distance を取る状態でのみ許可されます。

(6)、封じ込めゾーンでの活動

・厳格な区画の整備

・このゾーンへの入り口と出口の明確化

・物品の供給と医療サービス以外での人の移動の禁止

・検査なしの人の流入や移動の禁止

・区画内外での人の移動の記録

(7)、レッドゾーンでの活動

・リキシャ、タクシー、州間及び州内部のバスの運行、床屋やスパの禁止

・自家用車等は一定の許可された目的のためのみ許容。4輪車は2人まで乗って良い。バイクの2人乗りは禁止

・レッドゾーン内部でも封じ込めゾーンでないなら、SEZ(経済特区)、EOUs(輸出特区)、での商業活動、ITハードウェアなどの一定の製造業、全ての地方部(rural areas)での工場稼働、等が認められます

・都市部(urban areas)での建設業は一定の条件のもとで許容。地方部での建設活動は全て許容。

・都市部でのモールやマーケットは閉鎖

Eコマースは必需品のみ

・民間企業のオフィスは33%の出勤率で稼働して良い

・一定の政府機関は副署長クラスのみ100%出勤可能。他は33%の出勤率でのみ許容。ただし、保健、防衛、警察、関税当局、FCINCCNYK等は制限なく出勤して良い

(8)、オレンジゾーンでの活動

・州間及び州内部でのバスの移動は禁止

・タクシーは運転手1人に対して乗客1人の場合のみ許容

・自家用車による州内の移動は運転手1人に対して乗客2人まで

(9)、グリーンゾーンでの活動

・項目4で禁止されたもの以外は原則として許容

・バス停及びバスは使用率50%で運行可能

(10)、他の活動は各ゾーンの規制により特に禁止されていない限り許容されます。ただし、状況に応じて州政府が一定の規制を設けることは可能です

(11)、貨物輸送は全面的に許容されます

(12)、鴨輸送に関する州間移動は取り締まられません

(13)、53日までに事業の再開の許可を得た事業者等は新たな許可を録り直す必要はありません

(14)、2005年災害対策法(Disaster Management Act, 2005)の元政府から発せられたガイドラインは厳格に運用される必要があります。

(15)、上記の規制の実効性を担保するため、一定の指示が定められ、当局が動きます

・公共の場ではマスク着用義務化

・公共の場に5人以上で集会しない

・結婚に関する集会は50人まで

・葬式に関する集会は20人まで

・公共の場で唾を吐くと州政府の規定により罰金を課します

・公共の場での酒、paan、水タバコ、タバコは禁止

・酒、paan、水タバコ、タバコを売る店では6フィートのソーシャルディスタンスを取り、店の中には一時に最大5人までとする

・職場ではマスク着用義務化。職場として用意すること

・職場及び通勤においてソーシャルディスタンスの義務化

・従業員の勤務交代のときにもソーシャルディスタンスを確保できるようにしておく

・職場に非接触の体温計と消毒液を用意すること

・十分な消毒

65歳以上の人と妊婦、10歳以下の人は原則として外出禁止

・使用者は従業員が職場に置いてAarogya Setuの使用率が100%となるよう確保すること

・大規模な直接面会でのミーティングは禁止

・職場に最寄りの病院のリストを置くこと。COVID-19患者と思われる従業員をすぐに検査、隔離、医療施設に安全に送る設備を整えておくこと。

・通勤の際にソーシャルディスタンスを保てない従業員のために一定の交通手段を確保すること

・従業員の間の緊密なコミュニケーションと消毒の励行をすること

(16)、罰則規定も定められています

災害対策法五十一条から六十条

刑法百八十八条

には注意をする必要があります。

 

3、主なレッドゾーン、オレンジゾーン、グリーンゾーン(202051日時点)

日本企業が多い場所でも多くがレッドゾーンまたはオレンジゾーンになっています。

これらに含まれる地域の方は自分の住居や職場が封じ込めゾーン(Containment zone)に含まれていないかチェックする必要があります。

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736地域のうち550地域以上がオレンジまたはグリーンゾーンで、しかも封じ込めゾーンはレッドゾーンとオレンジゾーンの一部なので、実質的にインド経済はかなり活動可能な状態です。ただし、ムンバイ、デリーなどの大都市では以前としてレッドゾーンが多いのが懸念事項です。

 

DELHI

District Zone

South East Delhi Red Zone

Central Delhi Red Zone

North Delhi Red Zone

South Delhi Red Zone

North East Delhi Red Zone

West Delhi Red Zone

Shahdara Red Zone

East Delhi Red Zone

New Delhi Red Zone

North West Delhi Red Zone

South West Delhi Red Zone

 

 

GUJARAT

District Zone

Ahmedabad Red Zone

Surat Red Zone

Vadodara Red Zone

Anand Red Zone

 

 

HARYANA

District Zone

Sonipat Red Zone

Faridabad Red Zone

Gurugram (Gurgaon) Orange Zone

Nuh Orange Zone

Panipat Orange Zone

Panchkula Orange Zone

Palwal Orange Zone

Rohtak Orange Zone

Hisar Orange Zone

Ambala Orange Zone

Jhajjar Orange Zone

Bhiwani Orange Zone

Kaithal Orange Zone

Kurukshetra Orange Zone

Karnal Orange Zone

Jind Orange Zone

Sirsa Orange Zone

Yamunanagar Orange Zone

Fatehabad Orange Zone

Charkhi Dadri Orange Zone

Mahendragarh Green Zone

Rewari Green Zone

 

 

MAHARASHTRA

District Zone

Mumbai Red Zone

Pune Red Zone

Thane Red Zone

Nashik Red Zone

 

 

RAJASTHAN

District Zone

Jaipur Red Zone

Jodhpur Red Zone

Kota Red Zone

Ajmer Red Zone

Bharatpur Red Zone

Nagaur Red Zone

Banswara Red Zone

Jhalawar Red Zone

Tonk Orange Zone

Jaisalmer Orange Zone

Dausa Orange Zone

Jhunjhunu Orange Zone

Hanumangarh Orange Zone

Bhilwara Orange Zone

 

 

TAMIL NADU

District Zone

Chennai Red Zone

Madurai Red Zone

Namakkal Red Zone

Thanjavur (Tanjore) Red Zone

Chengalpattu Red Zone

 

 

UTTAR PRADESH

District Zone

Agra Red Zone

Lucknow Red Zone

Saharanpur Red Zone

 

 

 

4、ハリヤナ州グルガオン近辺の主なContainment zone(封じ込めゾーン)は以下の通りです。

 

Gurgaon containment zone(24 April 2020)

 

Blockwise list of 24 containment zones

A Gurugram Block 

1 Jharsa village 

2 Sector 39 

3 Sector 47 

4 Devi Lal Colony 

5 Sun City Sector 54 

6 Sarhaul Village 

7 Tyagiwara Badshahpur 

8 Meghdoot Apartment 

9 Sector 10 A 

10 Om Nagar 

B Sohna Block 

1 Gehlot Vihar 

2 Javed Colony 

3 Pahar Colony 

4 Nut Colony 

5 ITI Colony 

6 Mohalla Bhood Para 

7 Mohalla Thakurwara 

8 Tripat Colony 

9 Shiv Kund 

10 Bhagat Wada 

11 Raipur village 

C Pataudi Block 

1 Ward 11 

2 Ward 14 

3 Ganpat Vatika

 

[https://timesofindia.indiatimes.com/city/gurgaon/number-of-covid-19-containment-zones-increases-to-24-in-gurugram/articleshow/75331132.cms]

 

[https://timesofindia.indiatimes.com/india/lockdown-zones-india-in-centres-new-list-18-districts-still-in-red-zone-but-43-in-green-39-orange/articleshow/75498727.cms]

 

労働者保護のインド、日本と違う景色

1、最近のコロナの状況

 ついに5月に突入しました。316日頃から僕の会社は自宅勤務を取り入れており、1ヶ月半ひたすら家にこもるという静かな生活を送っていました。一方で世界では歴史的な動きが日々起きており、とても追いきれるものではありません。本日5月1日にロックダウンの延長がされましたが、これは次の記事で紹介します。

 世界ではコロナウィルスの累計感染者数が330万人、死者は23.5万人。インドでは202051日時点で累計感染者数は35,365人、死者は1,152人。日本では累計感染者数が14,516人、死者が466人となっています。

ニューヨークでは街の人にランダムで検査をしたところ20%が抗体を持っていたというニュースもあります。カウントされていない感染者も入れると世界で1000万人近くいるとみて良いでしょう。

 

2、最近の世界とインドのニュースピックアップ

 2020421アメリカの原油価格が初のマイナス水準まで低下しました。これは北米で原油の需要が未曾有なレベルまで減り、原油の貯蔵設備がどこも限界に達していることを物語っています。北米に限らず中東やロシアでも状況は似ており、商業活動が正常化しつつある中国が国家備蓄を増やすべく世界各国の原油を買いましていることが確認されています。

 

 中小零細企業(MSME)にとっては大変大きな打撃が降りかかっています。中央銀行と商業銀行、投資銀行が総出で中小企業への融資を確保するような政策が望まれます。

 

 内閣府は、破産倒産法(Insolvency and Bankruptcy Code)の適用による新たな企業の倒産を今後6ヶ月は発生させないという方向で調整中とのことです。首相の同意が得られれば正式に通達や法改正がなされる見込みです。インドでは2016年に破産倒産法が整備されて以降、倒産案件を処理する裁判所のパンクが問題になっていたところではありました。1ヶ月以上の完全ロックダウンで資金繰りが滞った中小企業は異次元の数に上るはずです。倒産手続きを6ヶ月間裁判所が受理しないという方策は日本では考えられない思い切った政策です。しかし、それくらいしないと生き残りをかけた企業が裁判所に殺到して一気に10年分ほどの倒産案件が降りかかって来ていたことでしょう。中小企業が6ヶ月でなんとか復活することを祈るのみです。

 

 インド政府は中国から拠点を移そうとする企業に対して一定のインセンティブを付与する計画を立案中です。COVID-19で、製造拠点が中国1つであった企業が、部品の納入などを受けられずに製造が中断されたことを受けて、多くの企業が中国からの拠点の移動を検討中という流れを受けて、インド政府が拠点の誘致をしている状態です。自社の維持だけで大変な企業が多い中、インド進出までするとなると大変ですが、インセンティブ次第ではインド進出の加速が見込まれる可能性もあります。*1

 

 2020424日、ムンバイITAT(国税上訴裁判所のムンバイ支部)が人道主義に則った判断をしました。ITATとは、国税関係の訴訟の第2審です。今回はロックダウン中の最中、ITATの歴史上初となるビデオ会議による弁論期日が設けられました。Pandhes Infracon Pvt Ltdという会社が会計年度 2009-10において法人税の未納が3480万ルピーあるとして税務当局から指摘を受けていた件について、利息と追徴課税分を含めた6470万ルピーが課せられていました。会社は約半額を支払ったものの、利息と追徴課税分である2910万ルピーに関しては支払いができない状態となり、ロックダウンに突入しました。しかし、ここで、2020320日に、労働省からの通達がなされ、COVID-19の中従業員を解雇または減給しないことが指示されました。これを受けて会社は残額を従業員への支払いに充てるため、徴税手続きを停止するようITATに控訴した、というものでした。ITATはこれを受け入れて、残高を回収するためのGarnishee Procedure(所得税法2263項の債権者代位権行使手続き)を停止して、従業員への支払いに充てるよう判断をしたのでした。ロックダウン中で、従業員を解雇しないよう求める政府通達がなされていたこと、徴税額の元本は支払われていたこと、Vivad se Vishwas Scheme(一定の条件のもと税金の元本を全て支払ったら利息や追徴分を免除する等の紛争早期解決制度)を利用できたことなど、特殊事情が重なったことから判例としての汎用性は低いですが、労働者の人権を重んじるインドらしい事案として大変興味深いものでした。*2

 関税の支払いの自動化、輸出業者が用いるShipping Bill(輸出明細書)のオンラインでの訂正・申告が可能になりました。Shipping Billとは、輸出業者が、GST(Goods and Services Tax, 日本でいう消費税)を支払うために申告をする必要がある輸出取引の明細書です。これの訂正・申告をオンラインでできるようにしたことです。ロックダウンを機にインドは政府レベルでのIT化を加速させています。*3

 

 423-25日でNFL(National Football League, アメリカのプロアメフトリーグ)のドラフトが行われ、255人が超人の祭典に加わりました。歴史上初となる完全リモートでのドラフト実施は、将来のNFLのビジネスモデルへの変更を迫るものとなるでしょう。LSUJoe Burrow, AlabamaToa Tagovailoa, OregonJustin Herbert, OklahomaJalen Hurtsが世界最強を巡ってプロの世界で衝突するのかと思うと目が離せません。

 

*1[https://economictimes.indiatimes.com/news/company/corporate-trends/red-carpet-for-firms-looking-to-ditch-china/articleshow/75280859.cms]

*2[https://itatonline.org/archives/wp-content/uploads/Pandhes-Infracon-Stay-order.pdf]

*3[https://www.cbic.gov.in/resources/htdocs-cbec/customs/cs-circulars/cs-circulars-2020/Circular-No-22-2020.pdf]