井の中の蛙、インドへ

インドで学んだことを書いていきます。よろしくお願いします!

【非常事態宣言出すのか出さないのか日本】

コロナウィルスに関して、日に日に緊張感が増しています。日本もさすがに本腰を入れ出しています。

日本でパンデミックが発生した時は医療が追いつかなくなる不安があるということで、非常事態宣言を出すことが議論されています。

日本の非常事態宣言についてインドの状況を参考にしつつまとめてみました。まずは感染状況からです。

 

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潜伏期間が長く、ロックダウンをしているのに感染確認者の数は増加の一方です。

[https://www.worldometers.info/coronavirus/country/india/]

 

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日本では京都や東京の一部でクラスター(感染爆発)が起きていると言われています。

[https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/#infection-status]

 

 

 

1、非常事態宣言とは

一般的に、非常事態宣言や、緊急事態宣言とは、どのようなことをいうものなのでしょうか。

これには、定義が複数あるところですが、簡便化のため、以下のように定義します。すなわち、「立法府の判断を得ることなく、内閣府が法律上に明記されていない私権の制限を課すことを認める宣言」です。

日本では、三権分立の制度が取られていて、原則として、私人の権利(身体的自由権や財産権等)を制限するには、立法府(国会)の承認を経た法律上の根拠が必要です。内閣府(内閣総理大臣地方自治体等)はこの法律に規定のない私権の制限を課すことができないのが原則です。

しかし、一定の緊急事態には、立法府の判断を仰ぐ時間的余裕がないため、内閣府に既定の法律以上の権限を認めることが必要です。このような三権分立の例外を認めるためには、私権を保護するため、状況を極めて限定し、そのような宣言発令の場面について法律に明記しておくことが必要です。

現在の日本では、災害対策基本法における災害緊急事態の布告(1051項)(重大災害時に一定の物資の供給等を国が管理できるようにするもの)、警察法に基づく緊急事態の布告(73条)(緊急事態には内閣総理大臣が警察に一定の統制権を行使できるようにするもの)、新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく新型インフルエンザ等緊急事態宣言(321項)などがあるといわれています。

 

今回問題となっているのは一番最後のものです。以下、詳細についてみてみます。

 

2、新型インフル法に基づく緊急事態宣言

 

最近、日本で議論されている緊急事態宣言というのは、

新型インフルエンザ等対策特別措置法32条によって発令される「新型インフルエンザ等緊急事態宣言」のことです。

 

(参考法令)

(新型インフルエンザ等緊急事態宣言等)

第三十二条 政府対策本部長は、新型インフルエンザ等(国民の生命及び健康に著しく重大な被害を与えるおそれがあるものとして政令で定める要件に該当するものに限る。以下この章において同じ。)が国内で発生し、その全国的かつ急速なまん延により国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼし、又はそのおそれがあるものとして政令で定める要件に該当する事態(以下「新型インフルエンザ等緊急事態」という。)が発生したと認めるときは、新型インフルエンザ等緊急事態が発生した旨及び次に掲げる事項の公示(第五項及び第三十四条第一項において「新型インフルエンザ等緊急事態宣言」という。)をし、並びにその旨及び当該事項を国会に報告するものとする。

一 新型インフルエンザ等緊急事態措置を実施すべき期間

二 新型インフルエンザ等緊急事態措置(第四十六条の規定による措置を除く。)を実施すべき区域

三 新型インフルエンザ等緊急事態の概要

 

3、非常事態宣言が出される条件と内容

国民の生命及び健康に著しく重大な被害を与えるおそれがあるインフルエンザ等の疾患が日本で発生して、

国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼすそれがある

事態が発生した場合に政府によって発令されます(32条)。

 

 

4、政府が講ずることができる私権の制限日本vs インド

 

日本

(1)個人の外出制限

外出しないことを「要請」できます(451項)。違反しても罰則はありません。

(2)学校、保育所の使用制限

利用停止を「要請」「指示」できます(4523項)。「指示」したことは政府が「公表」できます(45条4項)。違反への罰則はありません。

(3)イベント開催の制限

イベント等を開催しないことを「要請」できます(451項)。違反しても罰則はありません。  

(4)医薬品、食料品等の保管

政府が保管や売渡しを「要請」できます(55条)。違反者には懲役6ヶ月以下又は罰金30万円以下(76条)の罰則が課せられます。

(5)臨時の医療施設等のために土地や建物を強制使用

所有者に正当な理由がない限り、政府が強制的に施設を医療施設に転用できます(4912項)。拒むと罰則として罰金30万円以下を課せられる可能性があります。

 

(1)個人の外出           

不要不急の外出を禁止し、違反者は禁錮1ヶ月以下又は200ルピー以下の罰則を課されることがあります。

(2)学校、保育所        

閉鎖できる。違反者には「相当な対処」ができます。

(3)イベント開催        

禁止できます。違反者は懲役6ヶ月又は罰金1000ルピー以下又はその両方を課されることがあります。

(4)医薬品、食料品等の保管   

政府が流通を管理できます。

(5)臨時の医療施設等のために土地や建物を強制使用    

政府が管理できます。

 

上記の根拠はインドの刑法百八十八条、刑訴法百四十四条、1897年の伝染病災害法、2005年災害対策法、などです。コロナウィルスが人を死亡させるということを重く見て、場合によっては殺人罪(刑法三百七条)を問われる可能性もあります。インドの法律に関しては全てを把握しきれてはいないので上記以外の法律上の罰則が課せられる可能性もあります。連日、中央政府(財務省内務省、厚生省等)や各地の州政府から多くの通達がなされ、ウィルス封じ込めへの迅速な対応が取られています。これに基づき連日、逮捕者や自動車の没収、道路の封鎖、等はなされています。

 

5、まとめ

結論からすると、日本では、新たな法律が新たにできない限り人々に強制力をもった外出制限を課したり、道路の封鎖、電車の運行停止、飲食店や工場の稼働停止命令等はできません。

現状でできることといえば、各都道府県などの自治体ごとに人々の外出自粛の要請を発することです。この法律の規定の中でできることは、街に警察や自衛隊等が出て行き、しつこく説得を試みるということくらいでしょう。この場合も、有形力の行使は許されません。

一方、飲食店やイベントに関しては、中止等の「要請」に違反した運営者等を政府が公表できます。これにより、企業イメージを大切にする運営者にはそれなりに強い強制力が期待はできます。

41日現在、首相は非常事態宣言を「出す状況ではないと考えている」と述べました。一方、日本医師会、体力のある企業が多く属する経団連経済同友会は宣言をするべきと表明しました。中小企業が多く属する日本商工会議所は業績への影響が大きすぎるとして、出すべきでないという方向です。

イタリアやロシア、スペイン等でも強制力のあるロックダウンは行われていますが、インドでは現在、13億人が、罰則により担保された外出禁止令を21日間受けています。この規模での外出禁止令は、人類史でもなかなかないレベルのものといってよいでしょう。日本と比べるとインドの思い切りの良さがよく伝わります。