インドでムスリムの集会により感染爆発。ロックダウン延長も。
1、4月11日最近のインドニュースメモ
インドでは、3月後半のムスリムの集会を経て、感染者が爆発的に増加したこともあり、大変な騒ぎとなっています。モディ首相はロックダウンを延長すると言明はしていませんが、4月14日にすぐに解除とすることは憚られるという見解を示しました。オリッサ州、パンジャーブ州など複数の州の知事がロックダウンを延長することを表明しました。
モディ首相が威信をかけて行った世界最大規模のロックダウンは、インドの人口を考えるとかなり上出来ではあるものの、多くの人にとって予想外の感染数の増加を記録しています。
ロックダウンで国民がストレスを感じている中、怒りの矛先がモディ首相に行くのか、ムスリムに向かうのか、難しいところです。
2、最新の世界の感染者数の情報です。このブログの最初の方に比べて縦軸の数値がおかしくなっています。1918年から1920年で流行ったスペイン風邪の頃から衛生状態や人口など、多くの要素が変わっていますが、これと同程度の壊滅的打撃が訪れる可能性は十分にあります。スペイン風邪は3回の周期でやってきたと言います。まだ1回目の周期であることを考えると、背筋が凍る思いです。
[https://www.worldometers.info/coronavirus/coronavirus-cases/]
[https://www.worldometers.info/coronavirus/country/india/]
[https://toyokeizai.net/sp/visual/tko/covid19/]
3、最近のインドのニュースピックアップ
4月4日、#BanTikTok というハッシュタグがツイッターのインド界隈でトレンド入りしました。最近になって、ムスリムと思われる人が、モディ首相のロックダウンをあざ笑うかのような動画を複数投稿したことで、ヒンドゥー教徒達が、これを国家への反逆の扇動(sedition)であるとして批判しているようです。
デリー警察は、中東やパキスタンから流入するこのような動画等が、ヒンディー語で拡散されていることを重くみて、逐次削除や、アカウントの削除、場合によっては必要な法的措置をして行くとのことです。
Tik Tok はインドでは毎月1.2億人以上がアクティブに利用しており、2019年にはインド全土で7.5億時間が費やされました。Tik Tok は中国の次にインドで利用者が多く、特にインドのTear2,3の都市での利用者がとても多いという特徴があります。2019年には、Tik Tokが違法な動画の温床となっているとして、インドで一時期ダウンロード禁止となりましたが、再びこの議論が再燃しています。しかし、Tik Tokをインドで禁止すると50万ドル分の損失が出るというTik Tok側の主張もあり、調整は難航しています。
これと関連して問題となったことは、TikTokがアプリユーザーの多くの情報を収集していることが話題となっています。TikTokは、アプリを四王する人の他のアプリのインストール状況、タイピングをした情報、位置情報、機種、キャリア、タイムゾーン等の情報を収集するということが明らかになり、アメリカで話題になりました。アメリカでは、全ての軍隊の従事者の機械から削除するよう要請がされました。これに加えて、アメリカでは全ての公務員に対してアプリを削除する法律を検討中です。
4月4日、Yes Bank CEO の創設者のRana Kapoor氏がコロナウィルスに感染する恐れがあるため拘留されたくない旨の誓願書をムンバイのPrevent Money Laundering Act(PMLA) court (資金洗浄防止法法廷)に提出したものの、棄却されました。ラナ・カプール氏は、資金洗浄をしたとして、Enforcement Directory(取締局)に逮捕されました 。
ラナ氏は、イエス銀行のChief Executive Officer(CEO)(最高経営責任者)であったときに、娘たちの会社に便宜を与えるため、家族が関係する78の会社に合計3000億ルピーを融資し、そのうち2000億ルピーが不良債権になったとのことです。不良債権とは、90日以上返済が遅れた債権のことを言います。
ラナ氏の弁護士によると、これらの融資は返済が不可能になったわけではないことや、イエス銀行に利益をもたらしているとして、PMLA法違反はないと主張しています。*1
Tablhighi Jamaatというムスリムの集会が3月後半にあり、これにより大量に感染者が増加しました。Tablhighi Jamaatとは、イスラム教徒の宣教師の間で取り入れられている活動で、預言者ムハンマドがやっていたとされる修行を信者が集まって実施するというものです。
3月に、数週間にわたって二ザムディンという、南デリーのイスラム教のモスクで信者が集まってこの修行を行なっていたところ、3月22日に1日の全土ロックダウン、3月24日に21日間の全土ロックダウンは発表され、モスクの内部に多くの信者が取り残されました。この集会は3月13日にデリー政府が二百人以上の人による集会を禁止していたのにもかかわらずなされていたということで、ロックダウン後も出頭するのが難しかったものとみられています。3月にデリー政府の禁止に反してこれに出頭した人は9000人に上るとみられています。集まった人の中には、マレーシアやインドネシア等の外国から入国して、入国した後の14日間の自主隔離に違反して参加した人も含まれていました。
この集会に参加していた人たちは、その後、ロックダウンの規制をかいくぐり、インド各地のモスクを転々として、タミルナド、テレンガナ、カルナタカ、ジャムーカシミール、アッサム州等、インド全土に広がりました。4月6日の保健省の発表によると、インドで確認された4069人の患者のうち、3分の1以上の1400人以上がこのムスリムの集会の関係者から広まったものとみられています。また、4月6日には、インドの15の州に広がる25000人の参加者またはその接触者に対して隔離を命じました。*2*3
デリー警察は、携帯電話の位置情報を解析してこの集会に参加した人を割り出し、各州の警察と協力して参加者を追跡しています。この集会を指導した一部の宣教師について、デリー警察は、疫病災害法3条(法律違反による罰則)、刑法269条(疫病を広めるに至る不注意な行動)、270条(疫病を広める悪質な行為)、271条(隔離に関する規則への違反)、120b条(犯罪の共謀に対する罰則)、等に関する法律に基づいて、捜査を進めています。各州でこれに出頭した人の逮捕者が出ています。4月6日現在、各地に広がった集会参加者が未だに出頭していないとみられており、ハリヤナ州やパンジャブ州等の各州の政府はこの集会に参加した者に対して出頭を呼びかけています。
公共のテレビは直接的にイスラム教が悪いとは言わないものの、今回の集会に参加したムスリムを全力で非難するという論調のように感じられます。ヒンドゥー教徒とムスリムはインドでは仲が悪いのだと改めて実感しました。ただ、インドには歴史的にムスリム王朝がたくさん存在したのも事実。戦後、パキスタンとバングラデシュがイスラム教国家として独立しましたが、インド国内からムスリムを排除することはできません。日本では見られない政治や宗教の動向が大変勉強になります。
今回のような問題は日本やアメリカだと、ムスリム側が信教の自由を盾に政府と全面的に対立する構図が容易に想像できます。信教の自由に対して公共の福祉による制約が課せられる場面です。ムスリムの集会に参加した人を逮捕するという点で信教の自由に強度な制約が課せられているけれど、コロナウィルスによる人の死を防ぐという目的は大変重要。難しい憲法訴訟が発生しそうです。法律や憲法が違うので比べにくいですが。インドの判例の蓄積に期待しておきます。