井の中の蛙、インドへ

インドで学んだことを書いていきます。よろしくお願いします!

暴落したインド株を爆買いする中国企業に対してインド政府が待った

1、不況の中での中国によるMA対策。

(1)インド中央銀行から、外資流入の新たな規制が発表されました。

 418日に中央銀行(Reserve Bank of India)から通達が出され、海外直接投資(FDI)ポリシーを変更するということが発表されました。変更の内容は、インドと国境を接する国から、インドに対する投資を全て政府からの承認が必要とするというものです。今まではバングラデシュパキスタンのみ規制されていたのですが、新たにアフガニスタンや中国、ネパール、ブータンなどが含まれることとなります。直接中国資本を締め出すと言っているわけではないのですが、実質的に今回の規制は中国に焦点を当てたものと言って良いでしょう。

[https://dipp.gov.in/sites/default/files/pn3_2020.pdf]

(2)インドの外資規制概要

 インドでは、産業部門ごとにインド国外の居住者が保有して良いインド企業の株式の割合というものが定められています。農業、鉱業の多く、建設業、電気通信業、単一ブランド小売業、サービス業など、多くの場面で100%海外資本の企業が許されていました(自動承認ルート、Automatic Route、といいます)。国外居住者による100%保有が許されない産業部門としては、民間警備業、航空機産業、複数ブランド小売業、ラジオ、ニュースを含む放送業などがありました。これらの業界では、業種によって海外資本は49%まで、または74%まで、という規制が設けられていました(政府承認ルート、Government Approval Route、といいます)。

 インドは自国資本の保護をしすぎる政策から舵を切り、近年は外資を呼び込んで国の経済発展を図りたいという方針を撮っていました。上記の規制は近年徐々に撤廃されていき、自動承認ルートがかなりの部分で主流となっていました。

 

(3)インド市場は保護の重要性が高い

 COVID-19の発生前のインド株式市場は世界中の投資家から大変な注目を集めており、主要な株式指数は大変伸びていました。インドの重要な株式指数はNIFTY 50とBSE SENSEXの二つです。

Nifty 50(National Index Fifty) とは、ナショナル証券取引所というインド最大の証券取引所の主要50銘柄の時価総額加重平均指数で、インド株式市場の市況を表すのによく用いられるものです。

BSE SENSEX(Bombei Stock Exchange Sensitive Index)とは、ボンベイ証券取引所というインド2位の証券取引所の主要30銘柄の時価総額加重平均指数で、インド株式市場の市況を表すのによく用いられるものです。

 

 

[https://economictimes.indiatimes.com/indices/nifty_50_companies]

 

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NIFTY 50 のここ5年の変動です。2020年3月の1ヶ月で約40%の株価の暴落が起きたことが読み取れます。

[https://economictimes.indiatimes.com/markets/technical-charts?symbol=NSE%2520INDEX&exchange=NSE&entity=index&periodicity=day]

 

f:id:nisso30:20200419185459p:plain

BSE SENSEXのここ5年の株価の動きです。2020年3月の1ヶ月で約40%の暴落が起きました。

 

 今回のCOVID-19を受けて、インドで1日ロックダウンがあったのが322日、21日ロックダウンが発表されたのが324日ですが、そのときに2016年以来の安値を記録する暴落が読み取れます。

 

 

2、中国企業MA

 インドやヨーロッパ、北米でOCVID-19が話題になる1、2ヶ月前にすでにビジネスを一足早く再開したのが中国です。中国が営業を再開する中で3月以降世界経済はビジネスを止めざるを得ず、壊滅的な打撃を受けていました。ヨーロッパや北米、インドでは数多くの優良企業が株価を落とし、資金繰りが危うくなり、果ては倒産という道も見えているところでした。これに目をつけたのが圧倒的財力を持った中国の銀行の海外投資部門です。世界中の株のバーゲンセールの中、積極的に買い増して行ったのでした。

 

3、ヨーロッパの対策

 中国の銀行が、世界中で暴落する株価をみて、ヨーロッパ各国の企業を買収(M&A)するべく、大変大胆に海外投資をしていることが話題になっていました。ヨーロパではスペインやイタリア、ドイツなどが国内の弱った株式市場から中国資本を締め出すために新たな外資規制を導入して、インドもそろそろ導入しなくては、と言われているところでありました。

 

4、インドの対策

(1)インド最大の民間銀行に中国人民銀行からの買い増し

 インドではHDFC銀行の株が中国人民銀行(Peoples Bank of China)によって1750万株買い増され、その持ち分が0.8%から1.01%まで上昇したということが報じられました。約500億円が20201月から3月の間で投資されたものとみられています。これは、1%以上の株式を有する株主の開示義務によって明らかになったものです。HDFC銀行は、インドの民間銀行では最大規模の優良企業です。政府機関等を除くと、HDFC銀行の株主で1%を超える株主は約7人。その中の1人がPBoCとなったことで、COVID-19渦中での中国資本のインド進出が話題となったのでした。

 他にも、中小企業が中国企業によって買収されるのではないかとの危機感から、中小企業保護のための基金が銀行や投資家により結成されるなどの動きがありました。

 

(2)インド政府の神対応 FDIポリシーによる外資規制

 インドは上記の通り、「インドと国境を接する国」からの海外直接投資(FDI)に関して、全てを政府の承認を要するものとしました。これにより、インド政府は、自国の企業が中国資本によって支配されることを阻止できるようになります。

 

 

5、中国初で他の国を経由する投資は対象になるか?

 中国以外の国にある企業からの投資でも、‘Beneficial Owner’が中国にいる場合には政府承認ルートの対象となります。’Beneficial Owner’とは、定義が明確にあるわけではありません。ここで、Master Direction をみると、当該企業の50%以上の株式を有する者がこれに当たるという記述が見られます。しかし、持ち分が50%より低くても’Beneficial Owner’に当たる可能性はあります。

 例えば、似た規定に、SBO(Significant Beneficial Owner)の申告の規定が会社法89条、90条及び関連規則にあります。これによると、SBOとは、ある企業の株式を直接または間接的に10%以上持つ者が含まれるとされ、それに満たない場合でも’Significant Influence’を有していればその者はSBOにあたると規定されています。

 他にもPrevenrion of Money Laundry Actにある’Beneficial Owner’の定義も参考になります。ここでは企業を最終的に保有するか、その方向性を決定する権限を持つ者、または企業を代表して取引を行う者、と規定されています。

 このように会社法やPMLAの規定を参考とすると、今回のFDIポリシーの変更における'Beneficial Owner'の中に極めて多くの中国関係者が含まれることがわかります。

 

 投資側は問題ないと考えていてもインドの中央銀行によってこの認定を受けてしまうと罰則が下るということにもなりかねません。この萎縮効果は大きく、結果として中国資本を少しでも含んだ企業によるインド投資はかなり制限されることとなるでしょう。

 インドに投資をお考えの企業の場合、自社に中国資本が含まれていないか、また、中国居住者で、重要な影響力を行使する方(役員等)がないか、などの点に着目する必要があるでしょう。詳しいことは会計事務所や法律事務所の方に相談してみるのが良いでしょう。