井の中の蛙、インドへ

インドで学んだことを書いていきます。よろしくお願いします!

インド企業の株式譲渡とインドの印紙税法(Indian Stamp Act) に迫る

1、最近のインドの社会経済の状況:

 まずはコロナウィルスの感染状況からです。世界全体で累計患者数が295万人、死者20万人。インド全土で感染者数は31360人、死者は1008人。日本では感染者数13422人、死者376人。(42812時時点)。

 325日から始まった、世界史上最大のインド全土ロックダウンは1ヶ月以上経過しました。コロナウィルスはロックダウン中も猛威を振るっており、1ヶ月のロックダウンを経た今も、患者数は高止まり状態です。

 日本は医療崩壊しているという声を聞きますが、特定感染症に特化した病院のキャパシティは超えたものの、それ以外の病院のキャパシティを考えるとまだ重症患者を治療する施設は整っているという状態らしいです。イタリアのような爆発的な死者の数(428日時点で27359人)は生じないものと考えられます。また、日本では検査数が異常に少ないという状況を差し引いても感染率は非常に低いらしいです。これには多くの感染症研究者や政府職員が疑問を持っているようです。日本は平均的な衛生環境が良いのと、疫病への周知が初等教育の過程で浸透していることなどが影響しているのだろうと僕は見ていますが、真相はわかりません。

 ワクチンができるまで1年から1年半ほどかかるとのことで、そまでは今までのような経済活動はできず、何かしらの形で制限された形態になることは間違いありません。これからは、インド経済も含めて全世界の経済が未曾有の停滞を迫られるものと考えられます。

 IMF(国際通貨基金)によると、2020年の世界経済の成長率は3%まで落ち込む見込みとのことです。これはCOVID-19が長期化することでさらに低くなるとも予測されています。しかし、一方で、COVID-19明けには成長率5.8%程度に回復するとの見通しも同時にたてられています。

 インドでは420日より、一部の経済活動の再開が許されます。しかし、これは、極めて限定された状態にとどまるもので、経済的な停滞はまだまだ続く見込みです。

 急迫の危機にさらされているのが、飲食業、ホテル業、旅行業、航空業、などと言われていますが、他の業界も、基本的に楽観視はできない状況です。3月初旬から約2ヶ月ほどで世界経済は瞬く間に曇りから土砂降りの大嵐に変わったような急変ぶりです。リーマンショック級の不況を超えて1920年頃の世界恐慌レベルの不況が訪れるという予測もあります。

 今の状況で企業ができることは、とにかくキャッシュを確保すること、資金の流動性を確保すること、固定費(人件費や不動産費用等)を削る交渉等を可能な限り進めること、です。身を切る選択も生じるかと思いますが、頑張りましょう。明けない夜はないのです。僕も、今いる業界の知識経験を少しでも増やす、ということにまずは注力します。

 

2、本日はインドの印紙税法(The Indian Stamp Act, 1899)という法律に照準を当ててみます。

 インド居住者も非居住者も、インドで発行された証券の発行や譲渡の際、印紙税法に従って印紙税(Stamp Duty)を支払う必要があります。これは、法律の成立年度が1899年であることからも分かる通り、イギリスの植民地時代から続く制度です。

 印紙税とは、インドの公的な機関による承認を経る取引などの、法定された一定の取引に関して課される税金で、印紙の形で支払いがなされるもの、といえるでしょう。

 課税要件や課税額、支払い方法等はインド印紙税法(The Indian Stamp Act, 1899)に定められています。印紙税の徴収の業務は基本的に州政府に委ねられており、管轄の州政府が決まっています。例えば、株式や社債の譲渡証明書に関しては会社が登記された州の印紙税務当局で印紙税の支払いをするのが原則です。

 印紙を添付された資料の提出を求める規定が会社法(The Companies Act, 2013)や外国為替管理法(The Foreign Exchange Management Act, 1999), 所得税法(The Income Tax Act, 1961)など、随所で出てくるので、その際にはこの印紙税法を確認の上、管轄の印紙税務当局に向かいましょう。印紙の添付が求められる資料は各法令で細かく定められており(Schedule I)、株式譲渡証明書や社債譲渡証明書、会社定款、為替取引証明書など、幅広いです。

 

 

3、インド印紙税法の用語

 インド法には通常の英語と用法の異なる用語が多々登場するのですが、印紙税法も例外ではありません。注意した方が良い用語をピックアップしてみました。

Adhesive Stamp(2条(26)など):粘着性のシールによって貼り付けられた印紙。日本でも良く用いられる切手のような印紙のことといってよいでしょう。

Execute(2条(12)):署名をすること。他の英語でいう’sign’や’signature’と同じような用語です。

Impressed stamp(2条(13)):押印された印紙。ラベルが権限を持った当局の者によって押印されたり、浮き彫りにされたり(enbossed)彫りつけられたり(engraved)したもの。

Instrument(2条(14)):権利や義務が創設され、取引され、制限され、延長され、消滅させられ、もしくは記録されている資料またはそのように称されている全ての資料。日本語でいう「証書」といえるでしょう。

Stamp(2条(26)):州政府によって権限を与えられた機関や役人によって添付された印やシール、承認で、これには貼り付けられた印紙(adhesive stamp)や、押印された印紙(impressed stamp)が含まれます。これはこの法律のもとで課税される印紙税回収のために利用されるものです。

Consideration:取引の対価。英米法では良く見かける法律用語です。印紙税の価格はconsideration のxx%などと規定されたりします。

Schedule:別表。英米法ではよく見かける法律用語ですが、初見では何のことかわからないこととなります。

Rupee:インドの通貨単位。1 rupeeは約1.5円です。ヒンディー語だと「 रुपया」と表記し、rupayaと発音します。

Paisa (複数形はPaise)  1/100ルピー。 通常は1950年以降に導入された新paisaのことを指します。ヒンディー語だと「पैसा」と表記します。インドでは、昔の名残で、銀行取引や会社の財務諸表の作成等で全て小数点以下2桁まで表示がありますが、これはpaisaの文化の名残なのです。

Naya Paisa(複数形はNaye Paise):1950年より導入された通過単位です。それまでは1 paisa1/64 rupeeだったのですが、1950年より1 paisa 1/100 rupee となりました。naya(नया)new,新しいと言う意味です。現在ではpaisaというとnaya paisaのことを指します。

Anna:インドの通貨単位。1 anna1/16 rupee, または6.25paiseにあたります。ヒンディー語だと「आना」と表記します。

 

4、株式譲渡の手続き概要

インド子会社の株式を日本法人やタイ法人、シンガポール法人等で持つことは日本企業の場合よくあることです。組織再編などでインド企業の株式を売買することが何かと発生することになることでしょう。大まかな手続きの一例をまとめると、以下のようになります(インドの非上場企業の場合)。あくまで一例で、企業の状況により手続きは多少異なります。

海外からインド企業の株式を取引する場合、FEMA所得税法会社法、そしてこれらの関連規則の定めに従って株式評価をして、株式を公正な価格で取引する必要があり、この際には勅許会計士(Chartered Accountant)の承認が必要となることも多いです。インド企業の株式の取引や発行をご検討の際には以下のような手続きを全て一括してくれるような会計事務所、銀行、法律事務所等にお願いをするのが良いでしょう。

 

(1)、株式評価の実施

(2)、当事者間で譲渡の合意(Share transfer agreement) に両者署名

(3)、譲渡証明(Share Transfer Deed, 通常はForm SH-4) 記入、当事者間で対価の支払いを完了。両者署名(インド国外での署名の場合)

(4)、譲渡証明を印紙税務当局に提出(外国で署名の場合2の署名日から3ヶ月以内)(印紙税法18条)

(5)、印紙税(Stamp Duty)として譲渡価格の0.25%(印紙税法別表62条)支払い、譲渡証明に印紙(Stamp)の添付を取得(印紙税法10条)。その後両者署名(インドで署名の場合)

(6)、印紙を添付した署名済みの譲渡証明を会社に提出(2または4の署名日から60日以内)(会社法56条、2014年会社株式及び社債に関する会社法規則の11条(1))

(7)、譲渡制限株式の譲渡を決定する取締役会決議をしたのち(公開会社なら不要)

(8)、会社は株主の変更を登録可能となります(会社法56条)

 

5、印紙税の支払い方

 印紙税の支払い方には大きく分けて(1)e-stampを利用してオンラインで支払う(2)一定の販売店にて印紙を取得する(3)郵便料金別納印を利用して支払う(Franking)、と言う3つの方法があります。しかし、すべての州でこの方法の全てが利用できるわけではないので、州ごとの運用を確認する必要があります。

  また、印紙は州によって扱いが違うところもありますが、原則として6ヶ月で失効します(印紙税法49,50条)。

 (1)e-stampについて。インド政府は、Stock Holding Corporation of India(SHCIL)という会社をCentral Record Keeping Agency(CRA)に指名して、インド国内のすべてのオンライン上の印紙税の支払いをするように指名しました。この会社により、利用者の登録や支払いの管理等が行われています。SHCIL Authorized Collection Centers(ACC)を設置し、ACCに含まれる銀行などが徴税にあたることになります。

 (2)印紙は、一定の許可を得た商店にて購入することが可能です。しかし、ここでは100ルピー以下のような小さな金額のものや1000ルピーを超えるような高額なものが手に入りにくいという問題があり、使い勝手の悪さは指摘されているところです。また、非正規店での転売も行われており、場合によっては失効した印紙を買ってしまうことなどもあります。

  (3)郵便料金別納印(Frank)を利用するには取り扱っている銀行か郵便料金別納印取り扱い機関に申請書を送り、支払いをすることが必要です。これは簡単な支払いができるというメリットがありますが、統一規則がなく、銀行や州によって大きく取り扱いが異なることに注意が必要です。

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1964年から1994年まで用いられていた5 paisa coinです。現在のインドでは多角形の貨幣は廃止されています。

 

By Reserve Bank of India / AKS.9955 - Own work From the collection of Arun Kumar Singh, CC BY-SA 4.0, [https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=53559194]

 

 

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インドの印紙。インドの国章としては「アショーカ王の獅子柱頭」という、紀元前250年に作られたといわれる彫刻の絵が用いられています。4頭のインドライオンが背中合わせに座る絵が特徴です。

 

[http://sankarinfraprojects.com/know-about-stamp-duty/#]